妊婦健診再考:ヴァーチャル診療で柔軟な妊婦健診モデルを実現する

周産期

こんちには。

今回は、妊婦健診について、です。

2020年9月のAmerican Journal of Obstetrics and Gynecology on-line firstに、”Prenatal care redesign” 「妊婦健診再考」という記事が出ていました(こちら)。

アメリカのミシガン大学で、2020年3月から試験的に導入されている「新しい妊婦健診スケジュール」の報告です。

なにが「新しい」のかというと、来院して行う対面妊婦健診をできる限り減らして、バーチャル健診(つまり遠隔健診)を導入している点です。

現在のガイドライン(米国)では、妊産婦は12-14回来院して、妊婦健診を受けることになっている。しかしこれは1930年代に制定されたもので、主に妊娠高血圧腎症予防を目的にデザインされたものだそう。

このあたりの事情は日本でも同じではないかと思われます。

妊婦健診自体は周産期予後を改善することは知られています。しかし、どれくらいの頻度で健診をおこなえばいいのか、それに関してはエビデンスがまだありません。

母体の妊娠糖尿スクリーニングやワクチン摂取に関しては、予後を改善させるエビデンスは数多く存在していますが、しかしそのために14回の健診は必要ないと思われます。

新型コロナウイルスの影響で注目を集める遠隔医療ですが、妊婦健診に関しても、健診の柔軟性という点で患者満足度を上げるし、バーチャルケアやリモートモニタリングに切り替えても、周産期予後は変わらなかったとする報告が出始めています。

それでは、ミシガン大学で導入されている妊婦検診のスケジュールはどうなっているのかみてみましょう。

ちなみに、このスケジュールは低リスクの妊婦に対してデザインされています。

ハイリスク妊娠に対しては、適宜対面診療を増やしたり、また別のアプローチをとっているとのこと。

さて、この新しいスケジュールを開発するのに、マルチステイクホルダーチームというのを構成しています。

なんのこっちゃ??と思いますが、その内訳は、産科医、母体胎児専門医、家庭医、助産師、看護師、IT技術者(バーチャルケアプロジェクトマネージャー???なんて人もいる)、そして病院実務担当者(経理など)、だそう。すごい、人数ですね。

いろんな専門家に聞いてみて、ガイドラインをつくるなら次の2項目ははずせない!として、決まったのは。。

1)どうしても対面診療ではなければならない重要な項目を中心に、スケジュールをたてる。それ以外はビデオを使ったバーチャル診療を提供する。

2)スケジュールには柔軟性をもたせて、患者自身が健診サービスを追加できるようにしておく。

そんなに専門家にコンサルとしなくても、これくらい想像できそうですが、まあこういう手続きを踏むところが大事なのかもしれませんね・・・

では、実際どのような妊婦健診スケジュールかというと、実際に病院にきてもらって妊婦健診するのは4回のみです。プラス、1回の超音波診断があります。計5回でOK!!

新しい妊婦健診では、まず8週で、子宮外妊娠や流産などをエコーを使って診察。それ以外にも、妊娠初期の検査(子宮頸癌スクリーニングなども)、ワクチン摂取(インフルエンザなど)のために来院が必要です。

19週 超音波健診になります。胎児スクリーニング。超音波を使用するのは、これ1回だけなんですね。日本は、毎回妊婦健診のたびに超音波診断をしていますが、はたしてどれほど意味があるのか。。

28週 血圧、尿検査、胎児の心音検査(これはドップラーで確認するだけ)。それから妊娠糖尿病のスクリーニングと貧血検査。百日咳のワクチンとRh -の人はグロブリン投与。

36週 血圧、尿検査、胎児の心音検査(胎児心音モニターを使うのかは不明)。胎位の確認。B群溶連菌検査。

39週 血圧、尿検査、胎児の心音検査(胎児心音モニターを使うのかは不明)。内診して子宮口開大を確認。

実際に病院に患者さんが来るのはこれで終わりです。この間にバーチャル妊婦健診が入ってきます。

16、24、32、38週にバーチャル健診を行います。基本的に遠隔ですが、遠隔血圧モニターや遠隔胎児心拍モニターはエビデンスがない、として採用していません。

これらのバーチャル健診では、自宅で自分で血圧など測ってもらって、あとは問診が中心みたいです。

4回の対面診療と、4回のバーチャル診療、さらに超音波診断が1回で、計9回の妊婦健診になります。

WHOのガイドラインによれば、8回の妊婦健診を進めていますから、まぁそれに近い数ですね。

実は理事長のNPOでは、いま遠隔妊婦健診プログラムへの助成金を申請しています。

そこで、我々が提案している妊婦健診のスケジュールでは、対面診療が必要なのは、6回としています。

でもこの記事を読んだら4回でもいいような気がしてきました。。。。

理事長たちの対面診療が必要な妊娠週数と健診項目のは、以下のとおりです。

1)妊娠5-8週、超音波検査による子宮内妊娠の確認と予定日決定。感染症を含む初期検査(血液、尿、子宮がん健診等)実施。

2)妊娠12ー14週、超音波検査による胎児スクリーニング。

3)妊娠14ー22週、胎児奇形の有無、胎盤位置などの精密検査を要する。

4)妊娠30ー34週、妊娠血圧症候群ならびに、再度胎児奇形や子宮内発育遅延などがないか確認する。貧血等の血液検査ならびに尿検査が必要。

5)妊娠36-39週、胎位ならびに胎児状態を把握する。胎児心拍陣痛図計、貧血等の血液検査ならびに尿検査が必要。

6)妊娠40週以降、予定日超過になる場合は、分娩誘発などの選択肢を含めて検討が必要になる。胎位ならびに胎児状態を把握する。胎児心拍陣痛図計、貧血等の血液検査ならびに尿検査が必要。

今回の記事でも指摘していますが、健診と健診の期間があけば、妊婦さんの不安も増大します。理事長たちの計画では、このすきまの期間に、遠隔医療技術を導入して遠隔診療をする、というものです。

ビデオやチャット機能を通じた遠隔技術で、妊婦さんは医療機関にアクセスしてもらいます。

そして、通信機能を搭載したスマートフォン型のエコーを導入して、遠隔にいながら、医療者側が胎児の状態を把握できるようにしようと考えています。

記事の著者は結論として、「今回の新型コロナウイルス はヘルスケアシステムが急激な変化をもたらした。しかし、この変化はパンデミックへの対応だけで終わるものではない。」と述べています。

現在の変化が意味するところは、今までの医療機関中心でスケジューリングされていた妊婦健診が、妊婦さんが自分で選べる妊婦中心医療への変化であり、より一層妊産婦のニーズにマッチすることができるよになるだろう、としています。

著者たちは、この新しい妊婦健診モデルができれば、妊婦健診にいままでアクセスできなかった人たちに恩恵をもたらすだろうと言っています。

特に途上国では、まだまだ妊婦健診を受けることができない女性がたくさんいます。そういった女性たちに、彼女たちの家で、村で、健診ができるようになるだろう、と述べています。

実は、これこを理事長たちが目指す妊婦健診の姿です。

助成金とれないかなー

今日はこのへんで。

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