高血圧合併妊娠と低容量アスピリン ACOG(米国産婦人科学会)による妊娠高血圧腎症予防ガイドラインのインパクト

周産期

こんにちは。

高血圧合併妊娠の女性に対して、妊娠12ー16週からアスピリン81mg内服を開始した場合でも、加重型妊娠高血圧腎症、ならびに子宮内発育遅延、早産の発症頻度は減少しなかった、というアメリカの研究結果が、2020年American Journal of Obstetrics and Gynecology on-line firstに掲載されました(こちら)。

2016年よりACOG(米国産婦人科学会)ガイドラインでは、妊娠高血圧腎症予防のため、リスクを伴う妊産婦に対して、アスピリン81mgの処方が推奨されています。今回の研究では、このガイドラインが施行される前と後とで、高血圧合併妊娠の女性が、加重型妊娠高血圧腎症を発生した割合と周産期予後に差がでるかどうかを、単一施設内(Thomas Jefferson University Hospital)で検討しています。

高血圧合併妊娠?加重型??

妊娠している女性の血圧が高くなる場合は、大きくわけると2つあります。

一つは、妊娠したあとから血圧が上昇してくる場合。もう一つは妊娠する前から血圧が高かった場合です。

このもともと妊娠する前から血圧が高い人が妊娠した場合、高血圧合併妊娠と言います。ちなみに、前者のことを妊娠高血圧症候群といいます。ここらへん、医学生が産婦人科大嫌いになるところですね。ややこしすぎる。

どちらも血圧が高いことには変わらないのに、なんで区別するだ??と思いになるかもしれませんが、実はこの二つの高血圧は、妊娠に伴うリスクが大きく異なります。

詳しい病態はまだわからないことも多いのですが、もともと血圧が高い人が妊娠する場合のほうが、理事長の感覚から言うと、いろんなリスクが高くなります。例えば、早産、赤ちゃんが小さい(子宮内発育遅延)、さらに常位胎盤早期剥離などなど。

このもともと血圧の高い高血圧合併妊娠の女性が、さらに血圧が高くなって危険な状態になった場合を、加重型と表現します。英語では、superimposed preeclampsiaと表記します。

今回の研究では、加重型と診断するにあたり、次のような基準で診断しています。

血圧が収縮期140mmHg、拡張期90mmHg以下あるいはマイルドな高血圧(収縮期159mmHg、拡張期104mmHg以下)で落ち着いていた人が、収縮期血圧160mmHgまたは拡張期血圧105mmHgまで上昇してしまい、以前の血圧に戻すのに薬の量が増える、あるいは追加の別の薬が必要となる場合。

尿タンパクの量が、ベースラインとくらべて50%以上上昇する場合。

加重型と診断された症例は以下のような場合に「重症」と診断されます。

・薬を増量したり、追加の薬を投与したにもかかわらず収縮期血圧160または拡張期血圧105以上となる

・血小板が10万/μl以下

・肝臓酵素上昇、腎機能障害、肺水腫、右季肋部痛、心窩部痛、視覚障害などの症状がある場合。

今回の研究は、この高血圧合併妊娠の女性を対象として、ACOGガイドラインの施行前後で比較したヒストリカルコホート研究といことになります。

アスピリンと妊娠高血圧腎症

こちらは、以前にもお知らせしたように、いろいろなエビデンスが存在します。

46個のRCTから32891人を解析したコクランレビューでは、妊娠高血圧症候群のハイリスク群、例えば前回の妊娠で血圧が高かったなど、の女性に、アスピリンを飲ませることで、妊娠高血圧腎を発症するリスクが17%減った、と報告しています(Duley L et al. Antiplatelet agents for preventing preeclampsia and its comolications. Cochrane Database Syst Rev. 2007)。

ACOGガイドラインでは、どのような人がアスピリン内服の対象となっているかというと、次のようなハイリスク因子が一つでもあるような人(妊娠高血圧腎症の既往、多胎妊娠、腎疾患、自己抗体疾患、糖尿病、そして慢性高血圧)あるいは、中等度のリスク因子が二つ以上(はじめての妊娠、35歳以上、BMI>30、家族歴、など)となっています(https://www.acog.org/clinical/clinical-guidance/committee-opinion/articles/2018/07/low-dose-aspirin-use-during-pregnancy)。

結果

研究期間は、2014年1月から2018年6月まで。

ACOGガイドラインが2016年9月に施行される前と後とで、2つのグループに分けています。

ガイドライン施行後のグループでは妊娠12-16週までにアスピリン内服を開始するようになっています。多胎は除外しています。

ガイドライン施行後203人、施行前254人を対象として解析しています。実際アスピリンを内服したのは、ガイドライン施行後の142人(70%)、施行前は18人(7.0%)でした。

それ以外に、年齢などの母体背景に差はありませんでした。

さて、結果はどうだったというと。。。

加重型妊娠高血圧腎症の発症は、施行前で87人(34.3%)vs ガイドライン施行後で72人(35.5%)で差がありませんでした(p=。79)。

しかし、重症ではない加重型妊娠高血圧腎症はガイドライン施行後で有意に減少していましたが(32(12.6%)vs 9人(4.4%))、重症例は増えていました(55人(21.7%)vs 63人(31.0%))。

重症症例が増えていたのは、著者たちによると、重症の定義が曖昧だったのを今回はしっかり定義したことによって、報告が増えたからではないか、と言っています。

早産、子宮内発育遅延に関しては、ガイドラインの施行前後で差がありませんでした。

さらにサブグループ解析として、高血圧があり内服をしている人、既往歴がある人、糖尿病も一緒に合併している人、に分けてガイドライン施行前と後とで比較していますが、いずれも加重型になる割合に差がありませんでした。

さらに著者たちは、アスピリンが効きにくい集団として肥満、あるいは高血圧やループス、抗リン脂質抗体症候群のような慢性炎症が起こっているようなケースが考えられるとしています。

またアスピリン開始のタイミングも関係しているのかも、と言っています。もしかしたら、妊娠前から飲ませていたら、また違う結果がでたのでは、とも述べています。

リスクがある人は、なんでもかんでもアスピリンを飲ませばいい、というものでもなさそうです。

高血圧合併妊娠やそのほかの慢性炎症があるような人たちに対する、さらなる研究が望まれます。

きょうはこのへんで。

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