2019年コロナウイルスパンデミックの期間に早産率が下がった要因は何か?

周産期

こんにちは。

今回の論文は、American Journal of Obstetrics and Gynecologyから。「2019年コロナウイルスパンデミック期間中に早産率が下がった要因は何か」です。

Lemon L, Edwards RP, Simhan HN. What is driving the decreased incidence of preterm birth during the coronavirus disease 2019 pandemic?. Am J Obstet Gynecol MFM 2021;3:100330.Lemon L, Edwards RP, Simhan HN. What is driving the decreased incidence of preterm birth during the coronavirus disease 2019 pandemic?. Am J Obstet Gynecol MFM 2021;3:100330.

コロナウイルスパンデミックが起きた2019年は、早産の発生が減少したことが世界中で報告されています。しかし、この原因はいまだにわからないままです。

実は、早産自体が謎の疾患で、様々な要因が絡んでいると言われており、なぜ早産が起こるのかという原因はまだはっきりとわかっていません。なので、いまだに早産に対して有効な治療方法がないのです。

途上国の新生児死亡の最大の原因が早産であるにもかかわらず、有効な予防手段がないののはこのためです。

しかし、不思議なことに、コロナウイルスが蔓延してから、早産が減ったという研究が先進国を中心に報告されるようになりました。

確かに、理事長が当直バイトをしていた千葉県にある某病院でも、毎年お正月の時期は、切迫早産やらなんやらの救急車が押し寄せてくるのですが、今年はほんとに暇でした。。。

自分の肌感覚から言っても、確かに早産減っているのかなぁと感じています。

そこで、今回はアメリカの大学病院のデータを使って、その原因がどこにあるのか、ということを調べてみた、という研究です。

著者たちは、3つの仮説をたてて検証しています。

1)在宅で勤務できる女性はより少ないストレスに晒されることにより早産が減った

2)2019年のパンデミックの影響は人種によってことなるのか

3)これは医療サービスを提供する側の要因なのか?

方法

今回の研究は、University of Pittsburgh Medical Center (UPMC) Magee Womens Hospitalという単一施設での研究です。年間分娩件数が11000件もあるという巨大なバースセンターです。

後方視的に単一施設での単胎分娩を対象として電子カルテのデータを使用しています。

2019年コロナウイルス蔓延以前(2018年1月から2020年1月まで)とパンデミック期(2020年4月から2020年10月まで)で比較しています。

37週より早い分娩を早産とし、全体的な早産率を求めたあと、自然早産と人工的な早産とに分類しました。

その上で、対象者は次の基準によって分類されました。

1)加入している保険の種類と近隣の環境:

保険は、公的保険(Medicare or Medicaid)か私費保険か、でわけています。当然、私費の保険のほうが、裕福な人ってことになります。プライベートな保険に入れいるようなところに勤めている人は、リモートワークもできたでしょう、ということですかね。

近隣の環境というのは、Zipコードを使って、area deprivation index (ADI)というのを求めています。これは、地域の貧困を指数化したもので、1が一番裕福で、100が一番貧困、みたいな感じです。

2)人種:人種って書いてありますが、白人か黒人か、でしか分けていないですね。

3)医療機関の種類;

外来で分娩する施設って書いてあるのですが、これはoutopatient care clinic (OPC)という地域密着型の分娩施設らしく、低所得層むけに作られた医療施設らしいです。この医療施設で分娩したか女性と、それ以外の病院で分娩した女性で分類しています。

結果

コロナウイルスパンデミック以前の分娩は17687件、パンデミック時は5396件の分娩がありました。

コロナウイルスパンデミックの前後で比較すると、早産は有意に減少していました(11.1 vs 10.1%; P=.039)。

自然早産も人工的な早産もどちらも減少を認めていました。これを、私費保険か公的保険かで分けた場合、両群で早産率の差は認めませんでした。

しかし、地域の貧困率で比較すると、統計的に有意差はありませんでしたが、より裕福な地域のほうが、早産率が減少していた、という結果でした(most advantaged, 4.4 vs 3.8%; least advantaged, 7.2 vs 7.4%)。

人種別にみると、白人女性の早産率は有意差をもって減少していました(white, 5.6 vs 4.7%; black, 6.6 vs 7.1%)。

また、分娩施設別にみてみると、有意差をもって早産率が減っていたのは、OPCでない施設(つまり低所得層ではない人が利用する医療施設)のほうでした(5.5 vs 4.8%; P=.038)。逆に、OPCで分娩した女性では、早産率は上昇していました(6.3 vs 6.7%; P=.67)。

上記の結果をまとめると、自然早産に関しては、早産率が減少したのは、居住環境のよいところに住む、白人の女性で、病院でケアを受けていた人たちであった、と言えるかもしれません。

著者たちは、リモートワークの導入や、遠隔診療などのITを使った最新の医療サービスを受けられる環境にいた裕福な白人女性は、リモートワークなどによりよりストレスが少ない環境で仕事をすることができ、コロナウイルスパンデミックに対応する施策がもたらす恩恵を一番うけたのではないか、と言っています。

これは、前回理事長のブログで紹介したように途上国の周産期死亡が増えている、という内容と一致するかもしれません。

前回の論文では、コロナウイルス自体がもたらす被害よりも、ロックダウンにより医療施設へのアクセスが制限された、あるいは医療者の配置換えなどにより受けられるサービスが受けれなくなる、などの原因で母体死亡や死産率が上昇した、とありました。

この状況は、アメリカに住む白人女性でも同じであったでしょうが、ITへのアクセスや通信環境などの元から持っている富の差が、この早産率の差のようなかたちであらわれtらのかもしれません。

いままで、世界の貧富の差は広がっている、といろんなメディアで取り上げられてきましたが、それはまだ概念的なものに止まっていたように思います。すくなくともコロナウイルスが流行するまでは。

このコロナウイルス蔓延により、その格差が現実のものとして我々の目の前にあらわれてきたように思います。SDGは「誰一人取り残さない」と言っていますが、はたしてこのコロナ後の世界でそれがどこまで達成できるのか。。。。。

今日はこのへんで。

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