「産後うつと妊娠が判明したときの気持ちの関係」、 「魚摂取と産後うつ」、 「妊娠中の言葉の暴力と赤ちゃんの聴覚」、など

周産期

本日は、日本の雑誌からご紹介。

臨床婦人科産科 2020年 Vol .74 No.5から「エコチル調査からの見えてきた周産期の新たなリスク要因」

エコチル調査とは

2010年に環境省が国家プロジェクトとしてスタートさせた「子供の健康と環境に関する全国調査」のことで、「エコロジー」と「チルドレン」から、エコチル調査と呼ばれています。

環境要因(化学物質など)がこどもの健康にどのくらい影響を与えるのかを調べるのが目的です。

全国10万人の子供を対象に、胎児期から13歳に達するまで追跡する、観察研究としての出生コホート研究です。

環境化学物質への暴露による子供への健康への影響解明が主目的ですが、妊娠経過・帰結、うまれて子供の成長発達に影響を与える要因のほとんどのデータを集めています。

今回は、このエコチル調査の結果から興味深い話をピックアップしてみました。

妊娠が判明したときの気持ちは産後うつに影響を与えるか?

「予期しない妊娠」による出産は、児童虐待の重要なリスク要因であることが知られています。

日本では、予期しない妊娠を「妊娠時の気持ち」という質問を通じて把握しています。

回答は、「とてもうれしい」「予想外だがうれしかった」「予想外でとまどった」「困った」「特に何も思わなかった」の5つから一つ選んで答えるというものです。

この調査結果と、産後1ヶ月時の産後うつの関連について調査しています。

結果は、妊娠が判明したときの気持ちが「予想外でとまどった」「困った」と答えた場合、「とてもうれしかった」と回答した人と比較した場合、産後うつのリスクは高くなっていました。

さらに、「予想外だがうれしかった」「特になんとも思わなかった」でも産後うつのリスクが上昇した、という結果でした(調整後オッズ比はそれぞれ、1.2;95%CI1.2-1.31と1.67(1.3-2.13)でした)。

「うれしかった」と回答した人でも、「予期しない妊娠」であれば産後うつのリスクが増大するみたいです。

妊娠中からの魚食は妊産褥婦の抑うつをへらすのか?

ω3系多価不飽和脂肪酸(ω3)は魚に多く含まれており、最近では脂質異常症や動脈硬化に対する予防や改善効果が期待されています。また、うつ病にたいする効果もあるのでは、と研究が盛だそう。

そこで、魚の摂取量と、妊娠中と産後のうつとの関連を調べてみたそう。

結果は、魚を食べると産後6ヶ月と1年での調査では、抑うつ効果が認められたとのこと。

デンマークの研究では、妊娠中の魚介類摂取が低いと、抗うつ薬の処方箋をもらう危険率が46%も高かった(魚摂取の多かった人と比較して)、なんて話も書いてありました。

ちなみに、ラットをつかった実験では、このω3を母体に与えないと、母ラットは自分の脳を犠牲にして胎児にω3を供給しているそう!!

では、どれくらい摂取すればいいのか、ということですが、ある報告では1日にω3を1.8g、魚であれば50gをとればうつ病を予防できると示唆しているそうです。

妊娠中の暴言を受けると新生児の聴覚に影響するか?

妊娠中の身体暴力が周産期予後に悪影響があることは明白ですが、言葉の暴力も同じくらい、いやそれ以上に悪影響があることが知られています。特に、産後うつや、生まれた子供にたいする虐待行動が増えることが知られています。

この研究では、こどもの聴覚検査妊娠中の暴言の関連をしらべています。

赤ちゃんは退院する前に、聴覚のスクリーニング検査をします。この検査で、異常が認められると再検査、ということになります。この再検率が、妊娠中に暴言を受けた人とそうでない人では差があるのか、をみています。

結果は、パートナーからの暴言の頻度が増えると、暴言を受けていなかった母親から生まれた新生児と比べて、新生児聴覚マススクリーニング検査の要再検率が1.44倍になる、というものでした

著者は、「父親から母親への暴言が胎児の神経発達に悪影響を及ぼすことが示唆された」と言っています。

さらに、「パートナーに怒鳴られることで母は頻脈となり、それが胎児にとって不快な環境となり、妊娠中および出産後の子供の聴覚機能の発達に悪影響を与えているのでは」、と推察しています。

つわりが強いと早産リスクは下がるのか?

つわりは、妊婦さんの多くが経験するものですが、つわりが強いほうが流産になりにくい、という報告は結構あります。

しかし、早産リスクとの関係はまだ一定の見解はないそう。

というわけで、この研究になるわけですが、つわりの程度を、「つわりなし」「嘔気のみ」「嘔吐はしたが食事はとれた」「嘔吐して食事もとれなかった」の4グループにわけています。

結果は、つわりの程度と早産リスクには関連があり、つわりの症状が強い方早産リスクは低下していました。

「つわりがなかった」群では37週未満の早産は5.2%、32週の早産は0.7%でした。一方、「嘔吐して食事もとれなかった群」はそれぞれ4.3%、0.3%であり早産の頻度が有意に少なかった、とのことでした。

これは、なんらかのつわり症状があった群すべてに当てはまりました。

著者らは、「つわりが強いことは、よりよいホルモン環境を反映しているためであり、また胎児と母体を守るための適応的・予防的な機能を果たしているからなのでは」、と言っています。

ソーシャルキャピタルは妊娠糖尿病の発症に影響するか

ソーシャルキャピタルとは、周囲との人間関係、つまり親族、隣人や社会とのつながりの頻度、質をとらえる概念で、日本語にすると「社会的資本」とも呼ばれます。

妊娠糖尿病だった人には、「独居」、「愛情や好意を示してくれる人がいない」、「何か問題を相談したり難しい決断をするのを助けてくれる精神的な支えとなる人がいない」、「近しいと感じる人との連絡がない」、などの情緒的サポートがないと回答した人の割合が有意に高かったとのこと。

情緒的サポートの欠如は、女性において将来の2型糖尿病になりやすいとの報告があるそう。

著者らは、「情緒的サポートの欠如は、慢性ストレスを介して、インスリン抵抗生の増大につながるプロゲステロンおよびコルチコステロイドの分泌を促進することが影響しているのでは」と推測しています。

CTG異常がみられた新生児は育てにくい傾向があるのか

分娩中の胎児の状態は、胎児心拍数をモニターすることで把握しています。このモニターする検査のことをCTG(Cardiotocography)といいます。

この検査で、異常があると胎児機能不全(胎児の状態が非常にわるい!)と診断され、帝王切開などの介入をして早期に分娩にしなくてはいけません。

胎児機能不全は、自閉症をはじめとした発達障害のリスク因子とされています。

そして、発達障害では、赤ちゃんのときに育てにくい、ということがよくあると報告されています。

そこで、CTG異常があった子は、本当に育てにくいのか、を調べてみたという内容です。

「育てにくさ」は、「赤ちゃんをだきにくいか」、「よく泣くか」、「泣き止まないか」を母親に質問して調べています。

結果は、CTG異常と「育てにくさ」との間には関連性はなかった、とのことでした。

著者らは、「分娩時の異常というよりは、子宮内環境、特に母体の炎症、免疫活性化が児の精神神経発達に影響を与えているのでは」、と述べています。

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