黄砂(AsianDust)に暴露されると、常位胎盤早期剥離のリスクが上昇する!?

周産期

こんにちは。

今回は、かなり衝撃的な内容です(理事長的には。。。)

今回の論文は、2019年10月のBJOG An International Journal of Obstetrics and Gynecologyから(こちら))。著者は東邦大学の先生で、日本からの論文です(久しぶりに日本の論文です。嬉しいですねー)。

春先になるとよくニュースでも黄砂発生の情報が流れてきますよね。

黄砂とは、Wikipediaによりますと、

特に中国を中心とした東アジア内陸部の砂漠または乾燥地域砂塵が、強風を伴う砂塵嵐(砂嵐[2])などによって上空に巻き上げられ、を中心に東アジアなどの広範囲に飛散し、地上に降り注ぐ気象現象。あるいは、この現象で飛散した自体のことである。

とのこと。

黄砂暴露によって、心血管系のイベントが増えるのではという研究は結構あるみたいです。

どうも中国から日本にたどり着くまでに、いろんなものを運んでくるみたいで、硫黄や窒素、さらには細菌なんかも含まれていることが最近の研究でわかっているみたいです。それらが体内に入ると、炎症反応を惹起するらしいことがわかっています。

その炎症が心臓で起これば心筋梗塞、胎盤でおこれば常位胎盤早期剥離を起こすのでは、と著者たちは仮説をたてています。

この常位胎盤早期剥離という病気、産科医なら震え上がるほど怖い病気です。

普通、胎盤って赤ちゃんが生まれた後から自然と剥がれてお腹から出てきます。

しかしこの病気では、赤ちゃんが生まれる前、まだお腹の中にいる時に胎盤が剥がれてしまいます。

胎児は自分で息ができないので、胎盤から酸素とか必要なものをお母さんからもらっています。

その胎盤が剥がれてしまうと、機能がストップしてしまいます。すると、酸素をもらえず赤ちゃんは非常に重篤な状態になります。

さらに、赤ちゃんだけではなくて、母体も出血が止まらなくなったりします。

何が原因なのかまだよくわからないことが多いのですが、ちょっと前までは母体死亡原因のトップでした。

今回の論文では、黄砂が発生しているときの胎盤早期剥離のリスクと、発生していないときの胎盤剥離のリスクを比べています。

2009年から2014年に、35週以降で常位胎盤早期剥離になった妊婦さんを対象としています。

宮城県、茨城県、千葉県、東京都、新潟県、富山県、大阪府、島根県、長崎県の9県のデータを使用し、全部で3014人の妊婦さんを解析しています。

黄砂の観測は、Light Detection and Ranging (lidar)という測定装置(?;ちょっと読んでもよくわかりませんでした。。。泣)を使用しています。

黄砂発生は、SPM(浮遊粒子状物質)の大気中濃度がある一定以上であったときに、黄砂発生としています。これはニュースとかで、やっているものと変わらないですね。

2009年から2014年の間に、黄砂が発生した日数は、例えば千葉県だと、39日間ありました。長崎県だと71日あります。西日本のほうが、黄砂発生日数は多い傾向にありました。

さて、結果は、どうだったかというと。。。

分娩1日前から分娩日にかけて、黄砂に暴露されることが、胎盤早期剥離と関連していることがわかりました(オッズ比1.4 ;95% confidence interval = 1.0, 2.0)。これは喫煙、高血圧、前期破水などの因子を調整しても変わりませんでした。さらに、他の環境因子、たとえば大気汚染の程度(NO2など)、湿度、温度なども調整して解析をしていますが、やはり結果は同じでした。

著者たちは、黄砂の中にバクテリアの毒素(lipopolysaccharide)が含まれており、これが体内に入ると炎症反応を惹起するのではないか、と述べています。

また黄砂への暴露により喘息がひどくなることも知られており、これも原因の一つではないか、と言っています。

著者たちは、二酸化窒素などの環境汚染物質と胎盤早期剥離についても調べており、関連性を指摘しています。今回の研究では、そのような環境汚染物質の影響も調整したうえで、黄砂と胎盤早期剥離の関連が認めらました。

さて、ここまで読んで理事長が思ったのは、この話めちゃシエラレオネとかぶるかも、ということです。

シエラレオネと言わず、発展途上国の首都の空気は信じられないくらい汚染されています。特に排気ガスやゴミ焼却によってもたらされる有毒ガスが問題です。

日本のように環境にやさしい車なんて走っていませんし、下水などのインフラもありませんから、環境は劣悪です。

理事長がシエラレオネにいたとき、病院にいく途中に、大きなゴミ捨て場があって、よくゴミを燃やしていました。

当然、日本みたいなゴミ処理施設はありませんから、すべて野焼き状態です。その有毒ガスは、海からの風にのってすべて街に飛んできていました。

以前シエラレオネで一緒だったイタリアからきた公衆衛生の先生が、一生懸命、この公害物質などの環境因子と胎盤早期剥離の関係を調べていました。

実は、いままでちょっと馬鹿にしていました。そのイタリア人の先生のこと。

「環境汚染物質でそうはくおこるわけないじゃーーん」「まったく産科の素人はこれだから困るなー」って、理事長は思っていました。恥ずかしい。。。

すいません、理事長が完全に間違っていました。。。。。

今回、深く反省しながら、論文を読みました。

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