シエラレオネで産科エコー研修してみた

周産期

こんにちは。

しばらく投稿をさぼってしまいました。

今日からまた再開したいと思います。

現在、IGPCは、国連移住機関(IOM)から資金援助をえて、スマートフォンで使えるエコープローブを用いた、産科超音波研修とその後のフォローアップ事業をしています。主な研修対象となるのは、村々の診療所で分娩や日々の妊婦健診を担当している助産師さんや看護師さんたちです。

国境沿いの県を中心に、4県を選んで、その県の中でもさらに僻地にある診療所から、各県から20名ほど、合計約80名の医療従事者が参加する予定です。

今回の記事では、なぜ我々は産科エコーにこだわるのか、について改めて書いてみようと思います。

日本では、当たり前のようにできるエコー検査。産婦人科の病院で、エコー検査機器を置いていない病院はないくらい日本では一般的です。

では、エコーってなんの役にたつのでしょうか。

日本の開業医さんでは、3Dエコーや4Dエコーで赤ちゃんの顔をみせたり、性別をしらべたり、あるいは早い週数のうちから細かく赤ちゃんの形態を観察することで染色体異常を調べたり、という用途に使われています。

日本のエコー機器はかなり高額(数千万円くらい)で、必要のない機能もいっぱいついていますが、そんな高度な機能がなくても、エコー検査は十分に役に立つことがたくさんあります。

たとえば双子のような多胎妊娠がわかります。また、赤ちゃんの心拍を確認することができます。

でも、なんといってもエコー検査が一番威力を発揮するのは、予定日を決定できる、ということです。

予定日というのは赤ちゃんが生まれてくる日のことを指します。

当然ドンピシャに当てることはできませんが、おおよその日を推測することはできます。

よく使われている方法は、最終月経から数えて40週0日目を予定日とする方法です。

でもこの方法には色々問題点があります。

月経周期は個人差が大きいため、不正確になりがちです。

さらに理事長がいるシエラレオネのような国では、月経の日付を覚えている人はほとんどいません。自分の年齢も知らない人がたくさんいます。

我々が当たり前のように思っている暦(西洋カレンダー)は、実は当たり前ではないことに今更ながら気付かされます。

さて、そのような事情があるため、多くのアフリカの国々では、分娩予定日を知ることはほんとに難しいのです。

現在のところ、エコーで胎児の大きさを計測すると在胎週数が一番正確にわかると言われています。日本の女性が妊娠したら、一番最初に産婦人科医院を受診した際に、まずエコーで赤ちゃんを確認します。そして、赤ちゃんの大きさを測って、最終月経から数えた予定日と違うようだったら、エコー検査でわかった予定日を優先的に採用します。

しかしそれにも制限があって、実は妊娠の早い時期に赤ちゃんを計測しないと、不正確になっていきます。おなかが目立つ頃になって、エコーで胎児を計測しても、誤差が大きくなってしまい、計測値から求められた予定日は参考値程度にしか役にたちません。

なので、妊娠初期で受診することが大切になってきます。

日本では、妊娠4、5週で医療機関を受診するのが一般的ですが、実は、この妊娠初期で医療機関を受診するということが途上国では非常に稀なのです。

ちょっと古いですが、2017年10月にこんな論文が出ました。

「妊娠初期に妊婦健診を受ける人たちはいったいどれくらいいるのか」(Lancet Global Health 2017; 5: e977-83)

ちょっと日本人には理解できない問題設定です。

なぜなら、日本の女性にとって、妊娠したらすぐ妊婦健診を受けるのが常識だからです。妊娠4、5週で妊娠が確認できたら、役所にいって母子手帳と補助券をもらって、すぐ妊婦検診がスタートします。

ところが、この妊娠初期に医療機関を受診するというのは、こちらでは当たり前ではありません。

お腹が大きく目立ってきて、やっと病院に来ることがほとんどです。

それでも妊婦健診自体の受診率は改善してきていて、シエラレオネで妊婦健診を4回受診した人の割合は2008年に56%だったのが2013年には79%になっています。

さて、この妊娠にとって非常に重要な早期受診は、途上国ではどれくらい一般的なのかといいうと、この論文には24%だったと書かれています。つまり四人に一人しか妊娠初期に妊婦健診を受診していない、ということになります。

理事長がいるシエラレオネのプジュン県というところのデータでは、妊娠12週以前に受診しているのは、わずか9%程度でした。おそらく日本ではほぼ100%近いのではないでしょうか。

この理由として考えられるのは、いろんな要素がありますが、どうせ妊娠初期に来ても、村の診療所では、そのチャンスをいかせない、というのも妊娠初期の受診がなかなか浸透しない理由の一つです。

妊娠初期で子宮外妊娠や予定日決定などの重要な情報を得るためには、どうしてもエコーのような検査機器が必要になってきます。

そのため、世界保健機構(WHO)は最新のガイドラインで、妊娠24週以前に1回はエコー検査を受けることを推奨しています。

しかし、エコーをはじめとした画像検査ほど、日本をはじめとした先進国との差が激しい分野はありません。

つぎにご紹介するのはこんな論文です。

2021年10月ランセットグローバルヘルスから、「Availability of essential diagnostics in ten low-income and middle-income countries: results from national health facility surveys」途上国ので最低限必要な検査はどれくらい受けられるのかを調べた論文です。

村にある診療所レベルの1次施設から、一応病院と呼ばれる3次施設まで、検査設備がどの程度整っているのかを調べています。

検査内容は、マラリアなどの迅速検査キットや血液検査から、CTなどの画像診断機器まで含みます。当然、エコーもその中の調査対象のひとつです。

結果はこちらの表を見てください。

この表では、医療施設を3つにわけています。Basic primary care、 Advanced primary care、Hospitalです。Basic primary careとAdvancedはどちらも日本でいう街の診療所レベルだと思ってもらっていいと思います。Advancedはそれに加えてお産もできる施設ということになります。

左には、検査設備がどのくらい利用可能なのかを、赤色から緑色までで示しています。赤い色に近づくほど、設備がないことを示していて、緑になればなるほど、検査ができることを示しています。

右には、どのような国で調べたかが示してあります。

一番下には、調査対象となった検査項目が示してあります。

これでわかるのは、マラリアやHIVなどの検査は比較的1次施設でもできるようになってきているけど、画像検査などは、とくに1、2次施設では真っ赤、つまり、ほとんどできないことがわかります。

必要性が認められてWHOが推奨しているエコーですが、やはり、現状ではほとんどアクセスがないことがわかります。

とくに1次施設ではほとんどありません。1次施設では、エコーのような画像検査機器がほとんどないことがわかります。

IGPCがなぜエコーにこだわっているかというと、いままで見てきたような、女性がせっかく妊娠初期に医療機関を受診しても、そのチャンスを生かし切れない、つまり、予定日を特定したり、あるいは子宮外妊娠の可能性を排除できない、という状態を改善するためなのです。

では実際に、IGPCはなにをしているのでしょうか。

以前理事長がブログで紹介したスマートフォンでできるエコー機器を用いて、村の診療所で勤務している第一線のヘルスワーカーたちに産科エコーをトレーニングする試みを始めています。

トレーニングする内容は、①胎児の頭の確認、②胎位、③心臓の確認、④胎盤位置、⑤羊水のみかた、そして⑥頭部計測による在胎週数確認、です。

研修期間は5日間。

座学1日(解剖、超音波基礎、1st trimester, 2nd +3rd trimesterの見方など)、実習4日。

研修参加者は、国境沿いの僻地にある分娩取扱施設で働く助産師、CHO(Community Health Officer)と、県病院の医師らを対象としました。

4県で実施(1県の研修に20人参加)

研修の様子はこちらの動画をご覧ください。

エコー機器が、他の検査機器と大きく異なる点は、検査をする人によって結果が違ってしまう、ということです。

たとえば血圧計であれば、使い方を一回習えば、あとは誰が測っても同じ結果がでます。ところがエコーはそうはいきません。

というのは、いかにエコー画面を正確にスクリーン上に描出できるか、で結果が左右されてしまうからです。正確な画面を描出するには、プローブの微妙な操作を体で覚えていかないといけません。エコーの知識がいくらあっても、プローブをうまく操作できなければ検査機器としての価値が半減してしまうのです。

言ってみれば、自転車に乗れるようになるのと似ています。一回自転車にのれるようになると、どうやって自転車をこぐのか意識しなくても自然と乗れます。でも、はじめて乗るときは、こっちの足に重心をかけて、、、、など色々覚えていかないといけません。

自転車を乗れるようになる過程を言葉で説明することは非常に困難です。

いくら授業で言葉でならったところで、自転車はのれるようになりません。

エコー検査も同じで、エコーを使えるようになるには、練習しかないのです。

ということは、私たちの5日間のトレーニングだけでエコー検査ができるようになることは非常に困難であることが予想されます。

実際に研修を受けた人たちが、自分たちの村に帰ってちゃんとエコーが使えているかどうか。。。これを検証してきた動画が以下になります。

各診療所をめぐって、実際に使用されているところを見てきた感想は、んーーーもうちょっとみなさん練習が必要かなーという感じです(笑)

一つ言えるのは、もし本当にエコーを普及させたいのであれば、研修そのものよりも、継続してフォローアップしていくことが重要である、と言えると思います。

それでも、いままで何時間もかけて街まで行かないとできなかったエコーが、村の診療所でできるようになった、、、、そのことだけでも、もしかしたらいいことなのかもしれません。

今日はこのへんで。

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