経口妊娠中絶薬の自宅使用は安全なのか;アルゼンチンとナイジェリアからの報告

周産期

こんにちは。

つい最近日本ではこんな記事がでました。

「経口中絶薬、年内に承認申請へ。使い方は?費用は? 新たな中絶の選択肢になるか」

経口中絶薬、年内に承認申請へ。使い方は?費用は? 新たな中絶の選択肢になるか
イギリスの製薬会社「ラインファーマ」が今月下旬にも、「経口中絶薬」の製造販売に向けた承認申請を厚生労働省にする。使い方や費用などの申請内容について、北村幹弥・代表取締役社長に聞いた。

日本で妊娠中絶をするには、母体保護法の指定する医師が行うことが定められています。しかも、日本ではいまだに子宮内掻爬という方法が一般的に行われており、世界からかなり白い目で見られています。これは、物理的に器械を使って、子宮内容物を掻き出すという、とても野蛮な方法(と言ったら怒られるかもしれませんが。。)です。

さて、今回ご紹介するのは、Lancet Global Healthから、経口妊娠中絶薬を自宅で自分で使用すのは安全か、という内容の論文です。

すでに経口中絶薬の使用は世界では常識になりつつあります。

日本では経口中絶薬を承認するのかしないのか、という議論が始まったばかりですが、世界ではすでに自宅で自分で使ってみる、なんてところまできています。

それでは内容をみてみましょう。

薬剤をつかって中絶の効果はすでに多くの臨床研究で示されています。この薬剤は、mifeprosotoneとmisoprostrolといいますが、以前に理事長のブログでも紹介したことがあります。

現在、Covid-19などの影響で医療施設の受診が難しくなっています。以前にもこのブログで紹介しましたが、途上国や低所得層では死産や子宮外妊娠による合併症のリスクが上昇している、との報告があります。この理由は、医療機関を受診することが制限されてしまったため、適切なタイミングで医療機関を受診できないことが要因として考えれれています。

医療機関へのアクセスが制限されてしまうと、必然的に不適切な方法での堕胎が行われるリスクが高くなります。

Covid-19の流行がいつ終わるともわからない現在、医療機関への受診が制限されていても、自宅で安全に妊娠中絶ができる方法があれば、それに越したことはありません。

そこで本研究の目的は、医療機関外での薬剤自己投与の有効性について、医療施設での投与と比べて、調べてみた、というものです。

方法です。

研究が実施された国は、アルゼンチンとナイジェリアです。

これらの国では、医療機関での妊娠中絶ができません。そこで、今回の研究では、safe abortion accompaniment group(「安全な中絶のための付き添い」とでもいいましょうか。。)という団体のサポートを受けられる人たちを対象としています。

被験者はこの団体に電話してきた人たちです。この団体に電話をかけてきた人は、団体の専門カウンセラーから説明を受けます。このカウンセラーは、医療者ではありません。どのようなトレーニングを受けている人たちかは詳しい説明はありませんでした。またどのようなサービスなのかも詳しくわかりません。

たとえば24時間サービスでいつでも連絡できるのか、など。しかし、中絶薬内服後、必要に応じて相談にのってくれる、との記載はありました。そして必要とあれば(中絶後の合併症など)、医療機関につないでくれる、みたいなことはしてくれているみたいです。

今回の研究は、前方視的観察研究ということで、2019年7月から2020年4月まで行っています。

妊娠中絶のために使用した内服薬は、misoprostolとmifepristoneの二つです。この二つの薬剤の内服方法によって、次の2つのグループにわけています。misoprostrol単剤のみ内服した群とmifeprisotoneとmisoprostrolの薬剤を組み合わせた群、です。

そして、この研究では医療機関でこれらの薬剤を使用した場合とも比較しています。研究実施国では医療機関での人工妊娠中絶が禁止されているため、コントロール群を置くことができません。そこで比較のためのコントロール群は以前に行われた研究から集めたデータを使用しています。

最終的な評価項目は、外科的処置なしに子宮内容物が排泄された割合、です。

内服後の結果は、こちらから電話連絡をして、被験者からの自己申告で評価しています。

結果です。

2019年7月31日から2020年4月27日まで、2つの支援団体に電話をかけてきた人たち1051人が対象となりました。そのうち961人がすくなくとも一回はフォローアップできました。そのうち929人は1週間後にフォローアップができ、846人は3週間後のフォローアップまでできました。

研究参加者の年齢は14歳から50歳までで、20代が最多でした。

今回の研究で特徴的なのは、約半数(49%)が高等教育を受けた人だったということです。セカンダリースクール、日本でいえば、高校レベルまでの学歴を持つ人を入れると、87%になります。つまり、比較的教育レベルが高い人たちが主な研究参加者だったと言えます。初等教育のみしか教育を受けていない人は全体の13%しかいませんでした。

また妊娠確認の方法ですが、自宅で妊娠テストキットを使ったというのが最多で、67%!!もいます。さらに医療施設で採血で妊娠を確かめたケースが3割弱いました。

被験者の妊娠週数は7週前から22週まで様々でした。そのうち約半数が7週前の妊娠でした。

それでは、本研究の目的である外科的処置なしに中絶できた割合をみてみましょう。

22週までのすべての週数に関して、1週間後に確認したところ、Mifepristoneとmisoprostrolとの混合群では、妊娠中絶が完全に行われたのは、92%でした。一方、misoprostrolのみ群では、96%でした。同様に4週間後に確認したところ、混合群では、94%だった一方、misoprostrolのみ群では99%でした。

つぎに医療施設で医療者の監督のもとに行われた中絶との比較を見てみましょう。こちらは9週以下の症例のみで検討しています。混合内服した場合では、自宅での成功率は96%だったのに対して、医療機関では94%でした。misoprostrol単剤内服では、自宅での成功率は99%だったのに対して、医療機関では84%と自宅でやったほうが成功率が高いという結果になりました。

この比較は、過去に行われた研究から、同じ内服薬のメニューを内服しているデータを取り出して比較していますので、研究が行われている地域も時期も違うのですが、患者背景の比較では年齢以外は差がなかったとのことです。詳細は出ていないのでわかりません。

ところで、自宅でやった場合、合併症はなかったのかが気になるところです。例えば、自宅で中絶して、出血が止まらないとかなかったの?とか。

今回の研究において、薬剤の内服後に医療機関を受診したのは、全部で192人(20%)いました。そのうち、出血などの理由で受診したのは21人(11%)でした。17人(2%)は結局吸引処置をされた、とのこと。輸血をしたのは6人(1%)でした。医療機関を受診した理由で一番多かったのは、子宮内に何も残っていないことを確認するための超音波検査でした(157人:82%)。

この結果から著者たちは、医療機関でなくても、サポート体制が整っていれば自宅での内服薬での妊娠中絶は可能であり、しかも安全だ、と言っています。

確かに、理事長もmisoprostrolをこちらで多用していて、ほぼ合併症がないことも実感できます。 しかし、この結果から、「薬だけ持たせて自分でやってくれ」というにはちょっと勇気がいります。

今回の研究は、低中所得国での可能性を示唆するものだと思いますが、患者の理解度、そして医療機関へのアクセス、を考えると、理事長がいるような場所ではかなり難しいと思われます。こちらでは、普通の薬でも、自宅に帰ってから内服させるのが難しいくらいです。

特に小児の薬を親に渡しても、はたしてほんとに飲ませているのか、かなり疑わしいです。

教育レベルは初等教育までが最多ですし、その初等教育でさえも受けられない人が多い。このような場所で、この研究のように薬だけ渡して、自宅で自分で処置させるのはは困難と言わざるを得ません。

まずもって、妊娠週数がわからない。WHOは妊娠週数のエコーでの確認は必要ないと言っています。それは妊娠初期だったら、そんなに大差はないかもしれませんが、そんなに初期で受診すること自体が、こちらでは非常に稀です。しかも、自宅で妊娠検査薬で検査するなんてことは、まず無理です。ほとんどのケースでは、お腹が目立ってくる頃、つまり妊娠20週を過ぎてから受診します。

20週すぎてから受診してきた妊婦さんに対して、内服指導をしただけで、家に帰すのは現在のシエラレオネの現状を考えると、理事長的には怖くてちょっとできないな、と思ってしまいます。しかも、24時間相談できるだけの人的資源もないですし、受診できる医療機関へのアクセスも信じられなくらい悪いです。

今回の研究でも、5人に1人は内服後に医療機関を受診しているわけです。受診理由のほとんどはエコー検査目的だったみたいですが、逆に考えるとそれだけエコー検査が普及している場所での研究であったのかな。。とも考えられるわけです。

いずれにせよ、いくらCovid-19のために医療機関へのアクセスが悪いからと言っても、理事長のいる場所ではちょっと推奨できないな、と思ってしまいました。

今日はこのへんで。

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