ミフェプリストンとミソプロストロール

周産期

こんにちは。

今回ご紹介するのは、2020年9月のThe Lancetオンラインファーストに掲載された論文です(こちら)。

2017年から2019年に、イギリスで行われたランダム比較試験です。不全流産に対して、ミフェプリストンを投与後に、ミソプロストロールを投与した場合、ミソプロストロール単独投与に比べて、子宮内容物の完全排出率が高かったという内容です。

ミフェプリストンとミソプロストロール

ミフェプリストンは、プロゲステロン受容体拮抗薬で、妊娠維持に必要なホルモンであるプロゲステロンの作用を阻害する薬です。この薬は日本ではかなり「いわくつきの薬」です。

飲んで妊娠中絶できる薬として、2016年ころよりネットで個人輸入されたいた薬です。当然ながら日本では未承認の薬です。

いまではネットでこの薬を宣伝するページは少なくなりましたが、それでもまだ購入可能です。

飲んで中絶できる、という手軽さに引かれて内服した人が、大量の性器出血などで医療機関を受診するケースが目立ったため、厚生労働省が注意喚起を出しています(こちら)。

ミソプロストロールは日本ではサイトテックという商品名で販売されています。こちらは日本でも承認されている薬剤ですが、用途は「潰瘍」の治療薬として認められています。

こちらはプロスタグランジン作動薬ですので、胃の粘膜に対しては胃酸を抑える方向にはたらくのと同時に、実は、子宮の筋肉を収縮させる作用があります。しかし、日本では、子宮に作用させる目的での使用は認められていません。

ミソプロストロールはかなり以前から、産後出血のときに使う薬として、発展途上国では頻用されてきました。

途上国では点滴をとることが難しいため、内服や腟内に挿入するだけで子宮収縮効果がえられるこの薬は、産後出血に対する第一選択薬として一般的に使用されています。

理事長も、アフリカやネパールで、産後出血の人には何度もこの薬を使ってきました。さらに、妊娠初期で流産になってしまったけど、自然に排出されない場合など(繋留流産や不全流産)は、やはりこの薬で子宮収縮を促進していました。

今回の研究はこの二つの薬を、繫留流産(胎児心拍はとまっているけどまだ子宮内にとどまっている状態)の患者さんに使用して、ミソプロストロール単独と比べて、どの程度効果があるのか、ということを調べています。

方法は、二重盲検ランダム化試験です。対象となったのは、16歳以上で、14週前までにエコーにて繋留流産と診断された患者さんたち。場所はイギリスの28箇所の病院で、期間は2017年10月から2019年7月まで。

患者さんをランダムに2つのグループにわけて、効果を比較しています。

一つのグループは、まずミフェプリストンを内服してから2日後にミソプロストロールを経口、舌下あるいは腟内に投与します。

もう一つのグループは、ミフェプリストンのかわりにプラセボ薬を内服し、同様に2日後にミソプロストロールを投与されます。

評価したのは、どちらかのグループに割り付けられた時から数えて7日後に、繋留流産が自然排泄されなかったの人たちがどれくらいたのか、を評価しています。

結果はどうだったのかというと。。

全部で711人の患者さんが参加しました。ミフェプリストンが投与されたのは357人、プラセボ群は354人で、当然ながら年齢などの患者背景は差がありません。

さて、7日たっても子宮内容物が排出されなかったのは、ミフェプリストン投与群で59人(17%)、プラセボ群で82人(24%)で、統計的には有意な差となりました(risk ratio [RR] 0·73, 95% CI 0·54–0·99; p=0·043)。

つまりミフェプリストンを投与したほうが、ミソプロストロールを単独で使用するよりも、繋留流産を排泄できた割合が多かった、ということになります。

しかも、繋留流産が薬だけではどうしても排出されない場合、手術による処置が必要になりますが、この割合も、ミフェプリストン投与群のほうが17%、プラセボ群が25%と、2剤を投与したほうが、手術まで必要だった症例が少なかった、という結果となりました。

今回の試験はかなり厳格におこなった二重盲検ランダム試験ですので、それなりに信頼性は高いと思われるのですが、結果がなんとも微妙です。

なんかギリギリ差がでましたって感じがしてしまいます。

ミフェプリストンは大量出血がたまに発生するのですが、両者で有害事象の発生率は差がなかったとしています(どちらも1人づつ)。輸血を要した出血は両群ともありませんでした。

実は、日本でもこの2剤併用方法の臨床研究が行われています(https://www.clinicaltrials.jp/cti-user/trial/Show.jsp)。

日本ではまだミソプロストロールすら産科適応がないので、まずはこの薬だけでも産後出血症例で使えるようにしてもらいたいものです。

今日はこのへんで。

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