サハラ以南アフリカでの死産:タンザニアとザンビアからの報告

国際保健

こんにちは。

今回の論文は、BJOG An International Journal of Obstetrics and Gynecologyから、サハラ以南のアフリカにおける死産についての研究報告です。 

研究方法は、ザンビアとタンザニアの1次から3次までの病院から、診療録をもとにしたデータ収集と、実際に死産を経験した妊婦さんへのインタビュー、という混合型の研究です。

途上国の死産は、国際保健の課題の中で、いままでずっと忘れ去られたトピックでした。「顧みられない熱帯病」ではないですが、同じように、いままでほとんど論文などで取り上げられてきませんでした。

母体死亡、新生児死亡、乳幼児死亡に比べると、確かに何が原因だかわからないことのほうが多いし、とっつきにくい課題ではあります。

この論文も、えーーーこんな薄っぺらな論文がBJOGに載るのか!!、みたいな内容です。でも、それくらい途上国の死産問題を取り上げた研究が少ない、ということなのでしょう。

では、実際に論文の中身をみてましょう。

数量的な分析と、インタビューなどの質的研究を交えた論文です。

研究を実施した国は、タンザニアとザンビアです。

研究対象となったのは、量的研究には両国の3次レベルの病院から1997人の女性、質的研究では48人の女性と19人のパートナーを、1次から3次までの病院でインタビューしています。

量的研究のデータは、2018年7月から9月までの診療録から拾ってきています。28週以降で、研究対象期間に両国の3次病院に通院していた女性を対象としました。ここでの死産の定義はWHOの定義を採用し、28週以降で分娩になった生命兆候のない児、としました。

質的データは主にインタビューから得ています。Straussian grounded theory approach という手法を使っているそうなのですが、よくわからないので割愛します笑。

さて、結果です。

1997人分の診療録のデータを用いました。261件の死産を対象としました(161件がタンザニア、100件がザンビア)。

死産率は、タンザニアで16.1%、ザンビアで10%で、WHOが公式に発表している2.24%と2.09%とはかなりの乖離が見られました。

死産の原因では、28%が不明と最多でした。しかし、のこりの72%の症例で死産の原因として書かれている内容も、解剖などをした結果というわけではなく、どこまで信用できるのかいっさい不明である、と著者たちは述べています。

死産になった症例の97.6%の人が少なくとも一回は妊婦健診を受診しています。4回かそれ以上妊婦健診を受診した人は、タンザニアでは58.6%、ザンビアでは45%でした。

死産は2、3次レベルの病院に1次レベルの病院から搬送されたケースで多く認められており、死産のケースでは46.2%、生産の場合では20.3%でした。

また、産科医が立ち会いしているケースは死産になったケースで49.2%、生産30.6%で、死産になった場合のほうが医師立会のもとに分娩していることが多い、という結果でした。

死産となった時期では、48%が分娩中で最も多く、ついで妊娠中42%、不明10%でした。

途上国では死産の分類で、maceratedかfreshか、という分類があります。

Maceratedというのは胎児が死亡してから時間がたち表皮剥離を起こしている状態をさし、freshとは時間がたっていない児のことをさします。この研究によると、45%がmacerated、54%がfreshであったと報告しています。これは死産の約半数が分娩中に発生している、つまり生まれる直前に起こっている、という前述の結果と合っている、と著者らは言っています。

質的研究では、母親たちの声が紹介されています。

ここで、著者たちが言っているのは、死産をした母親にたいする医療従事者の態度がちょっと悪すぎじゃない??ってことです。

ある母親のパートナーは次のようにインタビューに答えています。

When she loses the baby, they don’t even sympathise with the mother. They will say it is bad luck, it just happens, go home, and that’s all.  (Partner, Tanzania) 

「彼女が赤ちゃんを亡くした時、医療従事者たちは同情さえしていなかった。’運が悪かったね、まぁよく起こることだよ、もうお家へおかえり’と言われただけでした。」

これ、確かに、こちらではよく見かける風景です。

いま理事長は、ボー病院の新生児室で当直をしていますが、新生児が死んだときも、だいたいこれと似たような対応です。

理事長も最近は、こっちに感化されてしまったのか、あまり詳しい説明をしないようになってしまいました。いけませんね。この論文で指摘されていることは、まさに自分のことを言われているようで、心が痛みました。

前回のブログでも書きましたが、中には献身的にベビーを診ているナースもいます。たぶんそんなナースなら、もう少し家族の思いを大切にしてあげているのだと思います。

みんながみんなこんなんじゃないけど、でも確かに、当たっています。

I was in shock; it was unbelievable that I lost my baby just like that. The male nurse started blaming me for been lazy in pushing, I was so hurt but I could not speak.  (Woman, Zambia) 

「私はショック状態でした。このように子供を亡くしたことが信じられなかった。ナースは私を責めました。もっとちゃんといきまないから、こういうことになったんだって。とても傷ついて、、、でも何も言えませんでした。」

これもよく聞きます。何か起こると、ナースや医者は患者のせいにする。病院にくるのが遅かった、分娩中にあばれて言うことを聞かなかった、などなど。

死産をした母親、あるいは赤ちゃんを亡くした母親に対しての心のケア。

これはまったく手付かずの分野です。

しかしこれこそ、日本のナースたちが、もっとも貢献できる分野ではないかな、と理事長は思うのです。

この論文の結論として著者たちは、死産の原因をつきとめるために、死亡解剖とかもっとやったらいいんじゃないか、と言っていますが、おそらく分娩中の死亡だとすれば、低酸素によるアシドーシスが原因です。解剖してわかることのほうが少ないんじゃないかな。。。死産の原因を突き止めるのは相当大変です。ここらへんは、著者たちが公衆衛生の先生だかわからないのかもしれません。分娩中の死産であれば、ほとんどは低酸素が原因でしょうから、それを証明するには胎児心拍モニターが有用かもしれませんが、WHOはこの胎児心拍モニターには否定的ですね。

あともう一つは、医療従事者による家族への接し方の問題です。まぁ、結論としてはおきまりの、コミュニケーションスキルのトレーニングをしましょう、ってことですね。特段深い考察はありませんでした。

あの途上国でよくみる医療従事者の態度はどこから来ているのか。。。

たしかに労働環境も厳しいし、次から次へと押し寄せる患者を捌かないといけない、というのもあります。でも、根底にあるのは「あきらめ」ではないかな、と理事長は思うのです。

だって、分娩中に胎児の心音が悪くなって、危機一髪で帝王切開で赤ちゃん救いました!なんて世界があることを、ここで働いている人は全く知らなんです。日本ではそれが当たり前ですけど。

そもそも、分娩前の赤ちゃんの状態を把握できるなんて、想像もしたことないでしょう。

そりゃ、「運が悪かったね」って言ってしまいますよ。

こんな浅い考察でもBJOGに載るくらいですから、途上国の死産に関してはほんとにエビデンスと呼べるような研究は少ないんだなーと思ってしまいました。

今日はこのへんで。

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