発展途上国の母子保健 :コミュニティーレベルのアプローチだけでは 妊娠高血圧症候群の死亡リスクを減らせない

国際保健

こんにちは。

今回は、2020年8月のLancetに掲載された論文の要約です(こちら)。

医療機関へのアクセスが困難な発展途上国の村々において、コミュニティヘルスワーカーによる妊娠高血圧腎症の早期発見、早期治療、早期母体搬送は、母体死亡、新生児死亡、死産を減らすことはできなかった、というインド、パキスタン、モザンビークの3各国にまたがっておこなわれた研究の結果が発表されました。

コミュニテイヘルスワーカーというのは、看護師や医師のようにフォーマルな医学教育を受けた人ではなく、村にいる人(字が読めるとか、計算ができる人たち)をリクルートして、単純な医療知識をトレーニングで身につけた人たちのことを言います。

基本的にはボランティアが多いです。発展途上国で病院にかかるというのは、それはそれは大変なことですので、ちょっと何かあったときに相談できる人が村にいると、非常に便利だろう、ということで、いままでたくさんの母子保健プロジェクトで育成されてきました。

日本の組織(ジャイカやNGOたち)が途上国で行う母子保健プロジェクトには、どれもこれも同じようにこのコミュニティヘルスワーカーの教育という活動項目が入っています。

途上国の3大キラーと3つの遅れ

発展途上国の母体死亡の原因は、ほとんど三つに絞られます。

産後出血、妊娠高血圧、感染(マラリアなども含む)です。

シエラレオネの母体死亡でも紹介したように、妊娠高血圧をほっておいて痙攣をおこしてから搬送されてくる母体が跡を立ちません。

原因として、3つの遅れがあると言われています。

一つ目は「病院受診のおくれ」、二つ目は「搬送の遅れ」、三つ目は「治療の遅れ」、です。

一つ目の「受診の遅れ」には、女性にお金を使わないことなど色々な原因があることを以前お伝えしました。

お母さんは重要な労働力ですから、なんの症状もないのに妊婦健診にいくと、その分労働力が減ってしまいます。そのため、歩いて半日かかる病院まで行って血圧計ろうということに、なかなかなりません。

そのため、血圧があがっていても気づかれないことが多いのです。

今回の研究では、村のコミュニティヘルスワーカーたちに、妊婦の血圧が高い場合にどうするかを指示してくれるアプリケーションと簡易血圧計(Microlife BP 3AS1-2 device )を持たせて、村落で妊婦健診をする、という介入を行っています。

研究デザインとしては、介入する地域と、従来と同じ地域をランダムに選定するランダム化比較試験です。研究目的は、介入した地域と、従来の方法の地域とで、周産期予後に差がでるかどうか、です。

それでは結果はどうだったかというと。。。

残念ながら、介入地域における母体死亡、死産、新生児死亡は、従来の方法と比較して減少しませんでした。

要は、コミュニティヘルスワーカーたちに最新のICTガジェットを持たせてモバイルヘルス(mHealth)で妊婦健診してみたけど、予後を改善するまでにはいかなかった、ということです。

主要評価項目である母体や新生児の死亡を含んだ項目では、介入地域で24.4%、コントロール地域で21.9%で、両地域間に差はありません。

しかし面白いのは、妊婦健診の訪問回数が増えると、周産期予後が改善されていた、という点です。

一回も妊婦健診を受けていなかった場合に比べると、8回妊婦健診を受けた場合では、母体死亡、死産や新生児死亡などのリスクは、約2/3くらいに減っていました。

今回、介入地域では最低4回の妊婦健診が目標でしたが、達成できたのは半分くらいだったとのこと。

もしかしたら妊婦健診をしっかり行えば、予後を改善できていたかもしれません。

さらに著者たちは次のような指摘をしています。

いままでに行われた村落レベルの介入試験をまとめたメタアナリシスでは、母体死亡や周産期予後を減らす効果はありそう、といことになっています。しかし、よく見ると多くの研究で、分娩施設の能力強化(病院とか診療所とかに機材を入れたりしている)もセットになっています。

今回の研究では、妊婦健診に焦点を絞っているので、施設レベルでの能力強化をしていなかった、このことも結果が出なかったことの一因では、と著者たちは述べています。アプリケーションを使うことで診断能力のレベルはあがっても、治療レベルが上がってないのだから、結果は出ないよね、ということです。

これと同じような結果どこかでみたような。。。と思っていたら、携帯型エコーの研究で、同じようなことを言っている論文がありました。

携帯型エコー(GEのパソコン型の機械)を僻地の村に持っていって、妊婦健診してあげれば、母体や赤ちゃんの予後が良くなるんじゃないかという仮説のもとに、ワシントン大学が5年かけて大規模なランダム試験を行なっています。

しかし、結果は同じ。予後はなんにも変わりませんでした。

携帯型超音波やモバイルヘルスは最新のIT技術を使っていて、非常に注目を集めやすいし、資金も集まりやすいことは事実だと思います。しかし、これだけで母体や赤ちゃんの命が救えるなんて考えは、かなり甘い!!と言わざるを得ないみたいです。

今日はこのへんで。

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