妊娠後期でも、小脳を計測するとけっこう正確に在胎週数がわかるかもしれない、というはなし

国際保健

低所得国において、小脳横径(Transverse Cerebeller Distance: TCD) に基づいて在胎週数を推定したところ、妊娠初期に胎児頭殿長(Crown Rump Length: CRL)を使って推定した在胎週数との誤差が一番小さかった、とする論文が、2020年4月のLancet Global Healthに掲載されました(こちら)。

研究では、小脳と大腿骨長を組み合わせた計算式を用いることによって、CRLでの計測に基づいた在胎週数予測との誤差が、±10.5日(24-29週)、±15.1日(30-39週)の範囲に収まっていた、と報告しています。

さらに、この結果は、正常体重で生まれてきた赤ちゃん以外にも、低体重児の場合にも当てはまった、とのこと。

予定日がわからない

アフリカやアジアの低所得国々で、女性が妊娠にしたとしてもすぐに医療機関を受診することってまずありません

日本みたいに、生理が来ないからといってすぐに薬局で妊娠検査薬なんて買えませんし。

医療機関なんて、歩いて半日くらいかかる場所にあるし、家で農作業手伝わないといけないし、そもそも夫がそんなとこに行くの許してくれないし。。。。。

というわけで、妊娠した女性が医療機関を受診するのは、もうすでにお腹がかなり大きくなってからというケースがほとんどです。

すると何が困るのかというと、予定日がわからない、ということです。

予定日がわからないと、赤ちゃんが生まれた時の在胎週数がわかりません

すると、生まれてきたときに、赤ちゃんの体重が1.5kgしかない場合、この子は早産なのか、それともお腹の中でうまく成長できなかった満期産の子なのか、区別がつかないのです。

予定日の決め方

予定日を決めるには、超音波をつかって赤ちゃんの大きさを測る方法があります。

この時に測るのが、胎児頭殿長(CRL)といいます。あかちゃんの在胎週数を知るには、これが一番正確な方法と言われています。でも、これは妊娠初期、だいたい12週くらいまでに測らないと、もう測れなくなってしまいます。

でも、前述のように、アフリカやアジアの妊婦さんは、この機会を逃してしまうことがほとんどです。

それ以降に、胎児を計測しても、もう正確な予定日や在胎週数はわかりません。この時期以降の赤ちゃんの成長は複雑な要素によって決まってしまうからです。

そこで妊娠後期、つまりお腹が出てくる24週以降でも、胎児の体の一部あるいは複数部位を計測することで、在胎週数がわからないだろうか、という研究が重要になってきます。

小脳横径が一番誤差が少ない

論文では、WHO Alliance for Maternal and Newborn Health Improvement study を用いたコホート研究を実施しました。このWHO AMNHANIというのは、2010年にサハラ以南のアフリカと南アジアにおいて母体と新生児の研究をするために設立された多国間コホートで、バングラデシュ、パキスタン、ガーナ、タンザニア、ザンビアからなっています。今回は、この中から、バングラデシュ、パキスタン、タンザニアの3カ国から構成されるコホートの分析ということになります。

対象は、2015年2月7日~2017年1月9日にまでに、上記の3カ国の研究サイトで、妊娠初期(8週から14週まで)に胎児CRLを計測して在胎週数を決定していることが確認できた単胎の妊婦さん1947人。初期のCRL計測に加えて、24週ー29週の間と30ー36週の間の、計2回、超音波による胎児計測を受けています。

主要評価項目は、既存の方法で計測した値からの推定在胎週数(Hadlockの場合、胎児大横径(BPD),腹囲(AC),大腿骨長(FL);Chevezの場合、小脳横径(TCD);INTERGROWTH­21st projectの場合、頭囲(HC))、これらのパラメーターを組み合わせた計算式(HadlockとINTERGROWTH­21st project)で推定した在胎週数と、これらの推定在胎週数とCRLから推定した在胎週数との差、など。

解析の結果、既存の計算式で推定した場合(HadlockとINTERGROWTH­21st project)、24ー29週での計測では、CRLでの計測に基づく在胎週数予測の±2週間の誤差であった。また30ー39週では、±3週間の誤差でした。

最終的に低体重で生まれた場合、すべてのパラメーター(TCDを除く)では、在胎週数を過小評価していました。

TCDと大腿骨長径とを組み合わせた計算式では、CRLでの計測による在胎週数予測の±10.5日(24-29週)、±15.1日(30-39週)の誤差範囲に収まっていました。

さらに、TCDだけでも、他のパラメーターよりは、かなり誤差が少なかったと報告しています。TCDの誤差は、13.0日(24ー29週)、17.4日(30ー36週)。ちなみにBPDだと、14.5日(24ー29週)、22.3日(30ー36週)くらいです。30週すぎると、3週間ずれてしまうのですね。。。。結構ひどい。

アフリカや南アジアの低所得国では、日本みたいに産婦人科の先生がみんな超音波装置を使えるとは限りません。

超音波を使える医療従事者が少ないので、なるべく簡単な方法で、トレーニングにも時間がかからない方法があれば、多くの初心者をトレーニングできます。

従来の方法では、頭、お腹、足と3回計測しないといけないため、学ぶべき技術が多くなり、トレーニングも長くなってしまいます。

この点、もし小脳だけ、もしくは小脳と足の2箇所だけ計測するだけで、かなり正確な在胎週数がわかるのであれば、産科超音波のトレーニングはかなり簡単になりますし、その意義は大変大きいと思われます。

そして、低体重児が生まれることの多いこれらの国では、週数に対して成長の悪い胎児を早期に見つけることができるようになることは、うまれてくる赤ちゃんの命を救うことができる第一歩となると思われます。

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