ネパールの4つの病院で、出生後の啼泣と自発呼吸の関係を調べた観察研究結果が、2020年6月のPeridatricsに報告されました(こちら)。
実は、出生後直ちに泣かないことと、その後の自発呼吸の関係というのを検討した大規模な研究はなかったとのこと。
日本の新生児蘇生法では、うまれてきた赤ちゃんで最初に確認するのは、早産かどうか、弱い呼吸・啼泣があるか、筋緊張、の3つです。どれか一つでも当てはまれば、蘇生処置を開始します。
途上国では多くの場合、チェックするのは泣いているかどうか、のみです。出生後に泣いていないならそっこーで蘇生開始となります。
大抵それであっていると思うのですが、今回の研究では、実際に出生後に啼泣がない児のうち、どれくらいが自発呼吸がなくて、どれくらいが自発呼吸があるのか、ということを調べています。

ネパールの4つの病院で、2017年7月から2018年9月に行われた観察研究です。
4つの病院の年間の出生数は、9007から11318人。新生児死亡率は、8.6人/1000出生から14.2人/1000出生という成績です。
新生児の蘇生を担当するのは、助産師さんです。データは、最低1年以上の経験のある助産師さんからなるデータ収集チームが担当しています。このチームが、入院病棟、陣痛分娩室、産褥室、新生児治療室、に配置されてデータを収集しました。
対象となったのは、研究参加病院で分娩になった22週以降の新生児。
除外したのは、病院到着前に分娩になった場合、帝王切開による分娩、分娩前に他院に搬送となった場合、です。
結果
19977人を対象としました。
2225人(11.1%)が出生後に啼泣認めませんでした。
このうち、自発呼吸も認めなかったのが1037人。
この1037人のうち、刺激によっても自発呼吸がでなかった(1分後)のが、260人(25.1%)。
さらにバックマスク換気を行っても自発呼吸がでなかった(5分後)のが、144人(13.9%)
でした。
つまり、出生後に啼泣なし自発呼吸なしで生まれた子たちの10人に1人以上は、バックマスク換気以上の処置が必要だった、と推測されます。
この研究では、バックマスク換気以上の蘇生処置はしていません。
多くの途上国の現場では、マスクバック換気以上の処置、つまり挿管して人工呼吸器管理をすることはほぼ不可能です。
では、啼泣はなかったけど、自発呼吸があった子達はどうだったでしょうか。
1188人がこの分類にあてはまりました。
このうち、刺激によっても自発呼吸がでなかった(1分後)のが、113人(9.5%)。
さらにバックマスク換気を行っても自発呼吸がでなかった(5分後)のが、24人(2.0%)
生まれてすぐに泣かなかったけど自発呼吸があった子たちは、刺激やバックマスク換気をすれば、大体助けることができそうな感じです。
しかし、この子たちの死亡率は、普通に啼泣があった児と比べると、退院前の死亡率が12倍だった(1.4%vs0.1%;aOR 12.3 (5.8–26.1)と報告しています。
さらに興味深いのは、在胎週数ごとの結果です。
22ー28週
啼泣あり 20人(46.5%)
啼泣なし 23人(53.5%)
ー自発なし 21人(48.8%)
ー自発あり 2人(4.7%)
29ー32週
啼泣あり 93人(66.4%)
啼泣なし 47人(33.6%)
ー自発なし 26人(18.6%)
ー自発あり 21人(15.0%)
33ー36週
啼泣あり 1470人(86.3%)
啼泣なし 233人(13.7%)
ー自発なし 116人(6.8%)
ー自発あり 117人(6.9%)
>37週
啼泣あり 16169人(89.4%)
啼泣なし 1922人(10.6%)
ー自発なし 874人(4.8%)
ー自発あり 1048人(5.8%)
28週までの早産児でも、5割弱が啼泣ありとは!
33週以降ですとほぼ9割です。。。
おそらく経膣分娩だけのデータであることが関係していると思われます。
周産期医療が必要と考えられるこれらの早産児ですが、啼泣なければ、たとえ自発呼吸があっても、その後の管理では、CPAPなどの呼吸補助が必要となるケースが多いと思われます。
29ー36週までで啼泣がなかったのは280人ですから、1.4%くらいでしょうか。
しかし、今回研究対象としている赤ちゃんたちは、経膣分娩だけですので、分娩後に啼泣あるいは自発呼吸がある可能性が高いと思われます。
帝王切開で生まれてきた小さい赤ちゃんたちは、おそらく呼吸障害必発でしょうから、それを考えると、1.4%よりかなり多い数の赤ちゃんが、出生後になんらかの呼吸管理が必要になってくるのでは、と思われます。
啼泣があっても自発呼吸がない子たちの死亡率が12倍も高いというのは、生まれた後の管理の問題かもしれません。
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