体外受精のうち、妊娠高血圧症候群(Hypertensive Disorders of Pregnancy: HDP)のリスクが上昇するのは、卵子提供による新鮮胚移植ならびに凍結胚移植と自己卵子による凍結胚移植であった、とのアメリカでの研究結果が2020年4月American Journal of Obstetrics and Gynecologyに掲載されました(こちら)。

2013年から2014年にアメリカの8つの州において、体外受精をうけた女性を対象として、出生記録からデータを抽出しています。コントロールとして同時期に自然妊娠で分娩となった女性のデータを使用しています。単胎の妊娠症例のみ。体外受精グループはさらに、提供卵子か自己卵子か、新鮮胚か凍結胚か、で4つのグループにわけています。
研究の目的は、体外受精の方法の違いで、妊娠高血圧症候群(Hypertensive Disorders of Pregnancy: HDP)を発症するリスクに差があるのか、をみてみます。
結果
自然妊娠1,382,311 人、体外受精83,582 人を対象としています。
自己卵子で新鮮胚移植した場合、自然妊娠と比較しても、HDPのリスクは上がりませんでした(adjusted odds ratio, 1.04; 95% confidence interval, 0.99, 1.08)。
つぎに、この自己の卵子で新鮮胚移植をしたグループを基準として、他の3つのグループと比較してHDP発症リスクを評価しています。
自己卵子で凍結胚移植した場合のHDP発症リスクは上昇(adjusted odds ratio, 1.30; 95% confidence interval, 1.20, 1.40)
提供卵子で新鮮胚移植の場合もリスク上昇(adjusted odds ratio, 1.92; 95% confidence interval, 1.71, 2.15)
提供卵子で凍結胚移植した場合もリスク上昇(adjusted odds ratio, 1.70; 95% confidence interval, 1.47, 1.96)
でした。
グループの背景は当然ちがっています。例えば、自然妊娠した人たちは、若くて、ヒスパニックが多くて、学歴が低いとか。また、体外受精をしている人たちの中でも、卵子提供を受けている人たちは、他のグループと比較して当然年齢が高いです。
そういう背景の違いを調整して、さらに妊娠前から糖尿病、高血圧を合併していた人を除外して検討しても、この結果は変わりませんでした。
また34週以前の早期発症HDPは、卵子提供で新鮮胚移植した場合のみリスクが高かったのに対し、34週以降の後期発症HDPは、自己卵を使った凍結胚移植と卵子提供での体外受精(新鮮、凍結)でリスクの上昇を認めました。
やっぱり提供卵子の場合は、新鮮胚でも凍結胚でもリスクが高かった、ということがわかりました。これは、たしかにな、って感じですね。
興味深いのは、自己の卵子で新鮮胚移植なら、HDPのリスクはそれほど上がってなかった、という点です。以前は、体外受精はHDPのリスクと言われていましたが、一口に体外受精と言っても、新鮮胚と凍結胚ではリスクが異なるみたいです。
著者らは、凍結胚や提供卵子を使った場合にHDP発症リスクが高まる原因として、黄体形成が阻害されているからなのでは、と推測しています。
黄体とは排卵した後に卵胞が変化したものです。卵がでた後の組織は、それで用済みになるわけではなく、ホルモンを放出して、子宮内膜の発達及び保持に関係しています。
最近の研究では、この黄体が欠如すると妊娠初期の母体循環に悪影響を及ぼしてHDP発症が増える、ということが言われています。
提供卵子や凍結胚を移植する場合、子宮内環境を整えるためのホルモン剤は外部からの投与になりますので、この黄体が形成されていません。
このことが、もしかしたら、HDP発症に関わっているのかも、としています。
日本では卵子提供はあまり一般的ではないので、この結果が関係するのは、凍結胚移植に関してでしょうか。
新鮮胚移植に比べて妊娠率が高いなどのメリットがあるので、最近では凍結胚移植で妊娠する患者さんが多くなっています。
日本でのデータを知りたいところです。
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