ユニバーサルヘルスカバレッジの功罪

国際保健

こんにちは

論文などの校正をしていたため、ちょっと投稿の間隔が空いてしまいました。

けっして毎日の診療が忙しかったから、というわけではありません笑。

というわけで、今日はユニバーサルヘルスカバレッジについてお話します。

と言っても、初めて耳にするという人もいるのではないでしょうか。

簡単に言ってしまうと、日本のようにいつでも誰でも、低コストで簡単に医療にアクセスできるようにしましょう、ということです。

余計な説明よりも、WHOが制作したビデオを見てみましょう。

英語ですけど、なんとなくストーリーはわかります。

Health care for all: let’s make it a reality

今、世界各国は、持続可能な目標(Sustainable Development Goals: SDG)の基本方針に沿っていろいろ施策を決定しています。

このSDGの3番目にあるのが、すべての人に健康を、という目標で、理事長たちに直接関係するような妊産婦死亡率、新生児死亡率低減や、医療と健康に関するターゲットがいろいろ設定されています。

その中に、医療制度に関するものとして、ユニバーサルヘルスカバレッジ(Universal Health Coverage: UHC)があります。

以前このブログでお話したことがあると思いますが、発展途上国において、医療機関にかかるということは一家が路頭に迷うことと同じ、とお伝えしました。

理由は、「現金」がいるからです。健康保険のない多くの発展途上国では、保険制度などありませんから、全額自己負担になることがほとんどです。そのため、自分の持っている資産、牛とか土地とか、を売って現金を作らないといけないのです。

そのため、病気になる、医療機関にかかる、ということはイコール、一家路頭に迷うことと同義なのです。

日本ではそんなことないですよね。

理事長の専門分野である妊婦健診について考えてみると、母子健康手帳とともに医療補助券をもらえます。この補助券によって、妊婦さんの経済的負担を軽減しています。

この券がないと、妊婦健診一回くらい10000円くらいになってしまいます。日本の場合、これが全部で14回くらいあるわけですから、家計にはかなりきついですよね。しかも分娩費用が50万円くらいかかりますので、単純に計算しても60から70万円以上かかることになります。

実際には、分娩にかかる費用も一時金で部分的に返ってくるので、実質的な費用は少なくなるのですが、一時的にでも出費がかさむので、やはり妊娠出産にはお金がかかってしまいます。

発展途上国においては、この費用はすべて自己負担です。

妊婦健診みたいな予防医療は、医療の恩恵を実感することが少ないですよね。痛くも痒くもないのになんで病院でお金使わなければならないんだ、ということになるわけです。

だから妊婦健診に行かない人がたくさんいました。

そこで、多くの発展途上国では、ユニバーサルヘルスカバレッジの名のもとに、妊婦健診をタダにしてしまいました。

おまけに、妊婦健診を受診しましょう、とジャイカをはじめ多くのNGOが盛んに活動した結果、妊婦健診を1回でも受診した人の割合は、かなり多くなりました。

一見、良さそに見えるこの施策ですが、とんでもない副作用がありました。

2018年に出された論文(こちら)によりますと、低所得国において妊婦健診をうけた人の割合は、出産した女性の86.6%でしたが、基本的な3つの検査(血圧測定、血液と尿検査)を受けたのは、53.8%しかいませんでした。

どういうことかというと、確かに妊婦健診を受ける人の数は増えたのですが、そこで受けられる医療サービスの質が伴っていない、ということです。

理事長がいたシエラレオネでは、この医療の質が大問題でした。

とくに、医療をタダで提供してしまったことの問題はとても大きかったのです。

医療をタダにするのは簡単なのです。政治家たちが、一言、「明日から妊婦健診はただにする」、と言えばいいだけだからです。

本来であれば、きちんと財源を確保して行われるべきだと思うのですが、財源などどこを探してもありません。

すると病院の収入が途絶えてしまいます。

当然、収入が途絶えれば、医者や看護師に払われる給料もなくなります。

本来は、政府から給料が支払われるのですが、止まってしまうことがよくあり、よくストライキしていました。

その結果どういうことが起きるかというと、薬や手術などの医療サービスは、患者と医療提供者との間で、値段交渉が行われるようになったのです。

医者や看護師も食べていかなくてはいけないので、お金が必要です。

点滴をしてあげたらいくら、手術をしたらいくら、とすべて個人に支払わなければならなくなってしまいました。

そうやって医療従事者たちはお金を稼いで、自分の生活を維持していました。

一概に医療従事者を責めることはできないと、理事長は思っています。

彼らにも養うべき家族があるのです。

表向きは医療費はかからない、ということになっていますが、多くの場合は医師の面接と外来でもらう内服薬までであることが多いのです。

点滴で使われる薬や、手術などを受けたかったら、金を払え、ということになってしまいます。

理事長のいた病院では、帝王切開は無料、婦人科の手術はいくら、とすべて定額制できまっっていましたが、とにかく患者が多くて順番まちなので、みんな袖の下を払っていい先生に早く手術してもらおうとするのです。

その結果、患者さんたちが払う医療費はかえって高騰してしまいました。

金を払わないと手術ができない。胎盤早期剥離を起こして、生死の境を彷徨っているような妊婦さんでも、です。

確かに日本でも、最近は妊娠出産は費用がかかりすぎ、といった内容の記事を見かけるようになりました。しかし、金が払えないから、といって命を落とすようなことはおきません。

それが、日常的におきてしまうのが、低所得国の現実です。

UHCは確かに実現できたらすばらしいことだと思います。

しかし、どれだけ多くの人がサービスを受けたか、ばかりに目がいってしまい、結果がどうだったのか、が問われていません。

すべての人に医療を。

言うは易く行うは難し、です。

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