生後2時間の新生児処置:アフリカの赤ちゃんは、うまれてすぐどんな処置をうけているのか

国際保健

こんにちは。

今回ご紹介するのは、2021年1月のLancet Global Health に掲載された論文です(Emma Sacks et al. The first 2 h after birth: prevalence and factors associated with neonatal care practices from a multicountry, facility-based, observational study. Lancet Glob Health 2021 Jan;9(1):e72-e80. doi: 10.1016/S2214-109X(20)30422-8. Epub 2020 Nov 12. PMID: 33189189)。

論文によりますと、ガーナ、ギニア、ナイジェリアの病院で、出生後の赤ちゃんがどのような処置を受けているか観察したところ、約半数の赤ちゃんが生後すぐに母子分離を経験しており、早期母子皮膚接触を実施していたのは全体の64%にとどまっていた、と報告しています。

発展途上国の分娩を取り扱う医療機関において、妊婦に対する医療従事者の態度が悪いということは、多くの論文で指摘されています。

「人間的お産を普及させましょう」なんてスローガンがあるくらいですから、途上国の分娩施設では人権無視もいいところの患者対応が普通に行われていたりします。

それでも、まともな医療サービスを提供できていればまだましですが、ロクな診療技術も設備もなくバタバタ患者が死んでいくのに、この態度の悪さはなんなんだ!?、と理事長も思ったことも多々あります。

しかし、理事長も実際に彼ら彼女らと同じ環境で働いてみて思いました。これは、個人の資質や性格の問題ではないのではと。日本の医療従事者には想像もできないくらいに過酷な環境で彼らは働いています。しかも給料もまともにもらえず。

ろくな医療設備も薬もない、さらに医療人材も足りていないのに、患者だけは押し寄せてきます。はじめから脆弱な医療資源をさらに酷使していますから、疲弊するのは当たり前です。

実は理事長も、現地の病院で働いているときには常に不機嫌で、よく怒鳴っていました。そんな理事長が、変わることができたのは、あるイタリア人ドクターのおかげです。。。。この話はまたいつかお話しすることとして。。。

話を元に戻して、いままで途上国の妊産婦がどのような扱いを受けているか、といった研究はありましたが、生まれたばかりの赤ちゃんがどのような扱いをうけているか、を調べた研究はいままでなかったとのこと。それで今回の研究を実施することとなったわけです。

論文では、ナイジェリア、ギニア、ガーナの3カ国から、ぞれぞれ3つの公的医療機関を選んで、1680件の分娩に対して観察研究を行っています。実施時期は2016年から2018年まで。選んだ病院の基準としては、分娩数が月に200件以上ある、2次以上の医療施設(ちょっと大きめの病院)である、となっています。

対象となった症例はすべて経膣分娩です。患者背景では、教育レベルではかなりバラつきが大きく、ナイジェリアでは結構高学歴が多かった(44%が大学レベル?)一方、ギニアでは45%がいっさい公的教育を受けていない、という結果でした。

死産件数をみてみると、1680件中40件(2.4%)でした。意外と低いですね。。。

赤ちゃんが産まれてきたときに、どれくらい元気だったかを点数化するアプガースコア(10点満点)をみてみると、5分値で7点以上(仮死ではない)が92%です。また、赤ちゃんが入院を要したようなケースは全体の7%、早期新生児死亡(うまれて1週間以内に死亡すること)は0.8%でした。

以上を考えると、この研究で選んだ病院は、医療レベル的には結構上位の病院だったのかもしれません。さらに、対象となった症例も経膣分娩の比較的トラブルの少ない正常産がほとんどだったのでは、と考えられます。

この研究では、母体とあかちゃんに対する処置10項目について観察評価していますが、主だったものは、臍帯結紮遅延(臍の緒を切断するのを60秒後におこなう)、口と鼻を吸引する、早期母子接触(skin-to-skin contact)、生後30分以内に母乳を与える、母子分離されたかどうか、暴力的な赤ちゃん蘇生(足をもって赤ちゃんを逆さに吊るす、叩く、赤ちゃんの胸を両手でもむ、両腿を曲げてお腹にくっつける、など)です。

ほとんどの施設でできていたのが臍帯結紮遅延で91.8%で実施していたとのこと。日本の分娩施設では結構早めに臍の緒をちょきんと切ってしまいますが、WHO的には臍帯を早期に切断する意味はあまりなく、むしろ1分くらい経ってから切断することを推奨しています(これは、児の貧血を防止する効果があるためと解説されています)。

ルーチンで赤ちゃんの鼻や口を吸引するのは結構やっているみたいで、67%で認められたとのこと。これもWHO的には推奨していません。うまれてすぐの赤ちゃんをみると、すぐ鼻とか口とかに詰まっている羊水をジュルジュルと吸いたくなってしまいますが、これもマイナス効果のほうが大きいとされています。吸引による迷走神経反射が原因で、徐脈になったりするからですね。

母乳を早期に与えたケースは23%でしかありませんでした。赤ちゃんが欲しがったら母乳を与えることができたのも全体の31%でしか認められませんでした。

早期母子接触は64%でしか実施されていませんでした。早期母子接触ってあんまり聞き慣れないかと思いますが、要は、産まれたばっかりの赤ちゃんをお母さんのお腹の上にだっこさせてあげることです。赤ちゃんが母乳を吸い始めることを促進する効果があります。

さらに、産まれてすぐに赤ちゃんとお母さんが引き離されてしまう母子分離を経験していたのは51%と半分以上のケースで認められたそう。赤ちゃんが泣かなかったりといった重篤な症例では止むを得ず医療的な処置をするため、赤ちゃんだけ別の場所で処置したりします。しかし、前述のアプガースコアや、早期新生児死亡をみる限り、産まれてすぐに医療的な緊急処置が必要だったケースが半分以上もあるとは思えません。おそらく不必要な母子分離が横行していると考えて良さそうです。

暴力的な赤ちゃん蘇生では、足をもって赤ちゃんを逆さに吊るす132件(8.1%)、叩く70件(4.3%)、赤ちゃんの胸を両手でもむ67件(4.1%)、両腿をお腹にくっつける94件(5.6%)、など全部で約3割近くのケースでなんらかの暴力的な蘇生が認められたそう。

この論文では、母体の年齢別、教育レベル別に、これらの結果をまとめているのですが、それでわかったことは、これらの推奨されていない赤ちゃんへの処置は、母親の教育レベルが低いほどその頻度が高かった、とう点です。母体の年齢はこれらの危険な処置とは特に関係がなかったみたいです。

つまり、これらの不適切な医療行為が横行しているのは、途上国の医者や看護師の医療知識が不足しているからという話ではないのかもしれない、ということです。

むしろ教育を受けられないことは、お金持ちか貧しいか、ということと関連しているかもしれません。あるいは、少数民族かどうか、住んでいる場所などによる差別、などのほうが関連しているのかもしれません。そういう医療以外の要因のほうが、適切な医療サービスを受けることができるかどうかの決め手となっているのかも、というのが理事長の感想です。

いままで、日本の援助機関は、母子保健プロジェクトというと、医療従事者にもっとトレーニングとかセミナーとかしないとダメだ!と考えて一生懸命やってきました。確かにそれも大切だとは思いますが、日本人が教える知識なんてのは、実際現地の人たちにとってみれば、ヨーロッパの援助機関やNGOからさんざん教えられていることばっかりです。

研修やセミナーに参加するのは、「まぁ、お小遣いくれるしお昼ご飯も食べられるから、研修にでも参加するか」と思っている参加者がほとんどではないでしょうか。

日本なら、お金持ちかどうかや大学を出ているかどうかで、妊娠、分娩、出産、さらに赤ちゃんの扱い方が差別されることはまずないと思います(少なくとも理事長の経験上は)。

そんな社会を作るためには、医療だけ一生懸命やっていてもダメなんだなーと改めて思った次第です。

きょうはこのへんで。

コメント

  1. 山本 嘉昭 より:

    小平先生、ご苦労様です。
    今日のブログは大変興味深い内容でした。実際に忙しすぎる現場では、祖母に早く赤ちゃんを抱かせて、さっさと分娩台を片付け、記録をしないと、次の分娩が待っていますものね。
    また、研修会の話も同感です。私がネパールで行った、NCPRでも、助産所の公務員の職員は、その日に給与が出ないと来てくれません。そのため、特別のイベントとして、特別の検診日開催し、どこかからの寄付をもらうためにセレモニーまで長々としていました。私から言えば、この時間を講習に当ててくれれば、もっと色々話せるのにと悔しかったことを思い出します。
    患者の教育レベルは、すんでいる集落ごとに区別され、インドやネパールではよくあるカースト制度みたいな関係ですね。対象者によって、扱いが変わるというのが、世界の常識、日本の非常識でしょう。
    応援しています。ずいぶん参考になりますので、東ティモールのこれからエコーの講習をしようとしている日本人担当者に、この記事を紹介させていただきます。
    お体に気をつけてください。 山本嘉昭

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