妊婦のサイトメガロウイルス初感染に対するバルトレックス(valaciclovir)大量療法 イスラエルからの報告

周産期

こんにちは。

妊娠初期にサイトメガロウイルスに初感染した妊産婦に対して、バルトレックス(Valaciclovir)を大量投与(8g /日)した場合、プラセボ群と比べて、胎児への垂直感染リスクを減らすことができた、とするイスラエルからの報告が、2020年9月のThe Lancet on-line firstに掲載されました(こちら)。

サイトメガロウイルスとは

近頃は、ウイルスの話をよく聞きますが、サイトメガロウルスはどこにでもいるようなありふれたウイルスです。

妊婦さんが罹って欲しくない感染症といえば、風疹が有名ですが、実は頻度としてはサイトメガロウイルスに感染する人のほうが多いかもしれません。

よくキスで感染するウイルスとか呼ばれていますね。唾液などの体液で感染します。

サイトメガロウイルスはヘルペスウイルスの仲間で、どちらかというとあまり清潔でない環境で感染します。発展途上国などのような、あまり環境が清潔でない場所で生活していると、自然と感染してしまいます。

しかし感染しても、症状がないことが多く、ちょっとした風邪ような症状で軽快してしまう人がほとんどです。

問題なのは、妊婦さんがこのウイルスに感染した場合です。妊産婦自身が抗体を産生する前に、胎盤を通って胎児に感染してしまうことがあります。これを先天性サイトメガロウイルス感染といいます。

胎児がサイトメガロウイルスに感染すると、様々な障害がのこります。最悪の場合、胎児水腫といって非常に重篤な状態になります。また、生まれてきた赤ちゃんが難聴になることがあります。

以前は、成人の6-7割がすでに感染しており、抗体を持っていました。しかし、衛生面が改善するにつれ、若い人の抗体保有率は下がってきており、特に妊娠可能な年代の抗体保有率の低下が問題視されています。

現在のところ、ワクチンなどの有効な予防策がありません。また一般的に抗サイトメガロウイルスの薬(ganciclovirなど)は妊婦さんに使用できないことが多いです。そのため、現在は妊娠初期のスクリーニング検査でも、サイトメガロウイルスを調べることをしていません。妊婦さんの感染がわかっても、何もできないからです。

このようにありふれているのに、非常にやっかいなサイトメガロウイルスですが、今回の研究では、ヘルペス治療に用いられる薬である「バルトレックス」で、もしかしたら、胎児感染を防げるかもしれない、と報告しています。

バルトレックス(Valaciclovir hydrochloride)

この薬は、ヘルペス治療に用いられる薬です。唇の周りに水泡ができて、とっても痛い、あのヘルペスです。口唇ヘルペスと性器ヘルペスとありますが、どちらにもこの薬は効きます。

500mgの錠剤を1日2回で5日間のみます。だから1日1gですね。

今回の研究では、この薬を1日8g、つまり1日に16錠を朝、夕2回にわけて内服しています。

今回の研究は、二重盲検プラセボを使ったランダム化比較試験です。

期間は、2015年11月から2018年10月まで。対象は、妊娠の前後あるいは妊娠初期に、血液検査でサイトメガロ感染の初感染と診断された妊婦。valaciclovir (8 g /日分2)投与群とプラセボ投与群にランダムに割り付けています。内服は22週まで継続しました。

垂直感染は、羊水穿刺をして羊水中のサトメガロイウルスをPCRで確認して、陽性であれば垂直感染あり、としました。

さて、結果はどうだったかと言うと。。

妊娠前あるいは妊娠初期に感染が判明した妊婦50名づつリクルートして、実際に解析できたのは、Valaciclovir群45名(すべて単胎)、プラセボ群45名(43名の単胎と2名の双胎妊娠)でした。

Valaciclovir群では45回の羊水穿刺をして、5人が羊水中にサイトメガロウイルスを認めたのに対し、プラセボ群では47回羊水穿刺して、14人が陽性でした [11%vs30% (p=0·027; odds ratio 0·29, 95% CI 0·09–0·90 for vertical cytomegalovirus transmission)]。

このうち、妊娠初期に感染した人だけを分析してみると、陽性だったのは、Valaciclovir群で11%、プラセボ群で48%でした(two [11%] of 19 amniocenteses) compared with the placebo group (11 [48%] of 23 amniocenteses; p=0·020)。

一方、妊娠前から感染があった症例を検討してみると、陽性率の差はありませんでした。

著者たちは、

「妊娠初期にサイトメガロウイルス陽性が判明してから薬を飲んだほうが、垂直感染を減らすことができたのは、感染したと思われる時期の直後から治療を開始できたからではないか」

と述べています。

実際、Valaciclovir投与群で感染してしまった5人の赤ちゃんは、薬を飲み始めたのが感染の75日あとと推定されます。

著者たちは、「母体が感染してから、胎盤を経由して胎児に感染するまで、だいたい7週間かくらいと考えれらるので、この間に治療を始めることが大切だ」、と述べています。

もし、本当にバルトレックスで胎児感染が防げるのなら、妊娠初期の検査でサイトメガロウイルスの検査も必要になってくるかもしれません。

今日はこのへんで。

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