前置胎盤もしくは低置胎盤で、子宮頸部にラクナが見えていたらやばいかも、というはなし

周産期

前置胎盤もしくは低置胎盤と診断された妊婦において、子宮頸部にラクナが見えている場合産後大量出血、帝王切開時子宮摘出術、穿通胎盤のリスクが高くなったとするイタリアの研究結果が、世界産婦人科超音波学会の雑誌 Ultrasound of Obstetrics and Gynecologyに掲載されましした(こちら)。

前置胎盤、低置胎盤、癒着胎盤

前置胎盤とは、胎盤が内子宮口を覆っている状態です。疾患の病態としては、めちゃ単純なのですが、これは産科医が最も恐る病気の一つで、めちゃくちゃ出血しやすいです。しかも、なんの前触れもなく突然大量に出血するという、とんでもない疾患です。

低置胎盤とは、前置胎盤のように内子宮口を胎盤が全部覆っているわけではないのですが、胎盤の位置が内子宮口に近いところにある状態です。これもめちゃ出血しやすいです。とくに分娩後。

そして、癒着胎盤。これは産科医なら、ぜったい遭遇したくない、と思うはず。胎盤は普通、赤ちゃんが娩出された後に自然に剥がれるののですが、これが剥がれなくて子宮筋層までくいこんでいるやつを、癒着胎盤といいます。

しかも、この癒着胎盤の診断を事前にすることが非常に難しいと言われています。なんてたちの悪い疾患なのでしょう。。。

この癒着胎盤には色々程度があって(癒着胎盤スペクトラム)、一番ひどいやつを、穿通胎盤といいます。つまり胎盤が、子宮筋層を突き抜けてしまって、子宮の表面に血管が見えているようなやつです。マジでみたくないっす、こんな光景。

ラクナとは?

英語ではlakeのことで、超音波でみたときに、血液のたまりが湖みたいに見えることから、こう呼ばれています。胎盤中の血液間隙とも言われます。

今回の研究の目的は、このintracervical lakes (ICL)が子宮頸部に見えた場合、癒着胎盤スペクトラムをどれくらい診断できるのか、それから、産後大量出血、帝王切開時子宮摘出術をどれくらいの精度で予見できるのか、を調べています。

ラクナが見えてると出血、子宮摘出のリスクが高かった

2015年1月から2018年9月まで後方視的に研究。対象は、前置胎盤もしくは低置胎盤で母体搬送で送られてきた26週以降の妊婦さん。

搬送されてきたときに経膣超音波で診断しています。最終的な癒着胎盤などの診断は、組織学的に診断。

癒着胎盤スペクトラムで認められるサインは、

Loss of the clear zone 胎盤後壁の低エコー帯の消失

Presence of placental lacunae 胎盤中の血液間隙

Bladder wall interruption 膀胱壁の不整

Uterovesical hypervascularity 胎盤から膀胱への豊富な血管像

これらを、癒着胎盤スペクトラム(Placenta Accreta Spectrum :PAS)サインとしています。 

全部で332人が対象。

そのうち、実際ICLがあったのは50人(15%)でした(そのうち、PASサインとICLどっちもあったのは43人)。

産後大出血があったのは92人。

子宮摘出したのは132人。

癒着胎盤スペクトラムだったのは176人。

まず第一の目的である、ICLで癒着胎盤スペクトラム疾患を診断できるか、という点については、関連なさそうという結果でした。ICLがあるからといって、癒着胎盤とは言えないみたいです。

次に第二の目的において、ICLがあった場合は、PASサインだけの人あるいは何のサインもなかった人と比べると、産後大出血、子宮摘出、穿通胎盤の頻度はどうだったかというと、結果はあきらかに高かったとのこと。

ICLのオッズ比をみると、産後大出血は、3.3 (95%CI, 1.6–6.5); P<0.001), 子宮摘出は、7.0 (95%CI, 2.1–23.9); P<0.001)、穿通胎盤は、2.8 (95%CI, 1.3–5.8); P≤0.01)でした。

さらに、いままでのPASスペクトラムのサインに加えて、ICLがあると、陽性的中立がかなり上昇して、診断精度があがっていました。たとえば、子宮摘出の陽性的中率は、PASサインだけだと、64.7%でしたが、ICLを加えると90.7%に上昇しています(しかし産後出血と穿通胎盤の陽性的中率は、上昇後でも50%と60%でしたけど。。。)。

著者たちは、ICLだけでも、前置胎盤あるいは低置胎盤症例の予後を推測することが結構できるのでは、としています。

しかし、ICLを見つける前に、前置胎盤の症例にPASサインの一つでもあれば、怖くて高次医療機関に送ってしまうのが普通だと思いますが。。。

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