中米にある国ホンジュラスでパソコンで使えるエコーを導入してみました

国際保健

ホンジュラスとは

中米にある国の一つで、人口は800万人、面積は北海道の1.3倍くらいです。国連および世界銀行の分類では低所得国の一つに数えられています。日本人にはあまり馴染みのない国かと思いますが、意外と日本との関係は古く、国交80年の節目の年には、眞子内親王殿下がご訪問されたことでも、ちょっとだけニュースになりました。 

しかし、なによりこの国が有名なのは、その治安の悪さです。国連の犯罪統計調査によりますと、殺人事件発生率が世界一という不名誉な賞をもらっている国でもあります。

日本の開発援助機関である、Japan International Coperation Agency (JICA)は、2013年よりこの国で、医療サービス改善プロジェクトを実施しています。そのプロジェクトの一環として、母親と赤ちゃんの健康改善事業を行なっており、私は2015年からこのプロジェクトに参加しています。

現在の日本で、お産が原因でお母さんが死亡するのは、10万出生に対して3人くらいです。しかし、ホンジュラスでは、日本の約40倍、つまり10万出生に対して120人くらいお母さんが死亡しています。主な原因は、お産後の出血です。日本では、お産は赤ちゃんと対面できる喜ばしい瞬間で、お産が死と隣り合わせと考える人はほとんどいません(現実には、お産はとっても危険がいっぱいなのですが)。しかし、ホンジュラスを始め途上国では一般的に、お産は常に死と隣り合わせです

ホンジュラスにおける母体の死亡原因のトップスリーは、産後の出血、妊娠高血圧、感染です。なかでも一番多いのは、産後出血です。出血が死亡原因の最多である点は、日本においても同じです。しかし、出血の原因が異なります。日本の場合、出血の原因として多いのは、羊水塞栓症や常位胎盤早期剥離などに伴う播種性血管内凝固障害に起因します。しかし、ホンジュラスの場合、出血の原因で一番多いのは、子宮内胎盤遺残です。

胎盤は赤ちゃんが娩出された後に娩出されますが、子宮内に残ってしまうと子宮がうまく収縮せず、出血が持続してしまうことがあります。トレーニングをしっかり受けた助産師さんや医者が分娩を管理する今の日本で、胎盤遺残が原因で出血をおこしてお母さんが死亡するなんてことはまずありません。いろいろ調べていくうちに、次のような事実がわかってきました。

実は、母体死亡が起こるのは、ほとんどアクセスの悪い辺鄙な村です。そういった村でお産がある場合、近くに住む親類縁者、あるいはお産婆さんがお産に立ち会います。きちんとトレーニングを受けた医療従事者がいないため、お産の後に積極的に子宮収縮を促すような処置はしません。胎盤が自然に出てくるのを待っているのが普通です。しばらく時間がたって、胎盤が出て来ず、出血量が多くなってはじめて医療機関にかかろうとします

一般的に、途上国における妊産婦死亡の原因には3つの遅れがあると言われています。「第一の遅れ」とは医療機関を受診するまでに要する時間のことです。胎盤が娩出されず、出血が多くなってから医療機関にかかろうとするまで、数時間あるいは1日から2日以上かかることも稀ではありません。その理由は、ひとことで言うと、「お金がかかるから」、ということです。医療機関にかかるためには現金が必要です。一番近いクリニックまで行くのに、自動車で数時間かかります。自動車の持ち主に払うお金、ガソリン代、そして医療費。。。女性、つまり母親の命にお金を使うことを夫がためらってしまうことが多いのです。現金収入の少ないこれらの村では、医療費やそのほかの費用を捻出するために、家畜を売ったり、借金をしたりしないといけません。これからの一家の生活を考えると、どうしても躊躇していしまうケースが多いのです。これが「第一の遅れ」です。

うまく車が手配できたとしても、舗装された道などありませんから悪路を何時間もかけて移動することになります。これが「第2の遅れ」です。

クリニックへの道

「第3の遅れ」とは、やっと辿り着いた医療機関で適切な医療を受けられない、ということです。診療所の多くは夜間は医者がいないことが多く、当然輸血のための血液など手に入りません。そのため、産後のお母さんがさらに遠い県立病院に転送されることが少なくありません。治療できる医療機関にたどり着くまで数時間かかってしまうというのが現状です。その結果、子宮内胎盤遺残という日本ではありえない理由で死亡してしまうのです。

妊婦の家

このような現状を改善するために、ホンジュラス国政府も一生懸命に、病院での分娩を推進しています。医療機関での分娩がなかなか普及しない原因の一つは、やはり医療機関までの距離が遠いことですから、分娩が近くなってきた人が待機できるような施設を病院の近くに作って、そこで陣痛がくるまで待っている、という政策を打ち出しています。NGO(非政府組織)が中心となって、「妊婦の家」と呼ばれる簡易宿泊施設を建設しています。ここで、臨月を迎えた妊婦さんは陣痛がくるのを待って、陣痛がきたら隣の病院でお産をする、という仕組みです。

うまくいくと思えたここの方法ですが、なかなか効果があがりませんでした。なんでだろうと思って色々しらべみるとつぎのようなことがわかりました。

「妊婦の家」で宿泊するのはただですが、食事代はかかってしまいます。おまけに、家に残してきた上の子たちや家族の面倒もみなければならないので、早く帰らなくてはいけません。それで、多くの妊婦さんが分娩になる前に、村に帰ってしまうのです。

妊婦の家

なぜこんなことになってしまうのか。実は、妊婦の家にくる時期が適切ではなかったのです。どういことかというと、そろそろ臨月かなということで妊婦の家にくるのですが、予定日がまったくあてにならないのです

日本では、生理がこないとみなさんすぐに妊娠検査キットで確認します。そしてすぐに医療機関を受診して、超音波で赤ちゃんがお腹にいることを確認してもらいます。そして何より大事なのは、その時に予定日を決定します。大抵の人は最終月経から数えて、予定日を決定します。そして、超音波で胎児計測した値で修正して最終的に予定日を決定します。実は予定日の決定は、妊娠初期の頃にしないと不正確になります。

ホンジュラスでは、生理がこなくなったからといってすぐに受診しません。ある程度お腹が大きくなってからしか医療機関を受診しません。すでに7ヶ月も8ヶ月もたっているので、誰も最後の生理がいつだったかなんて覚えていないのです。当然、超音波などの高価な機械がないホンジュラスでは、最終月経から起算する方法とお腹の大きさを測る方法でしか、予定日を決定できません。結局、極めて不正確な予定日しか決められないということになります。

その予定日が近づいたので、妊婦の家に行っても、陣痛はくるはずありません。あるいは、まだ先だな、なんて思っていたら、陣痛がきてしまい村で分娩になったなんて話もよく聞きます。村でのお産は、やはり危険を伴います。難産の場合に、村で3日も4日も生まれなくて、やっと病院に来た時には胎児は死亡しており、高度の子宮内感染から敗血症になりお母さんが死亡する例が後を絶ちません。

エコーが村でかんたんにできる

現在、理事長のNPOは、携帯型超音波診断装置の導入を試みています。以前は非常に高価だった超音波診断装置がいまではかなり安価でしかも小型化しています。ノートパソコンタブレット端末、あるいはスマートフォンがあれば、電気がないこところでも使用可能です。この携帯型超音波装置を使用して、村へ訪問診療にいった際に、妊娠初期の妊婦さんにエコー診察を行うことを推進しています。正確な出産予定日を決定することに加えて、双子や逆子などのリスクがある妊婦さんの発見が主な目的です。

本日は長くなったので、このへんで。

次回は、実際に携帯型超音波をホンジュラスの研修医たちに教えてみた、です。

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